2015 Fiscal Year Annual Research Report
被災地の民族誌-東日本大津波の被災者とそのコミュニティに関する人類学的研究
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24320173
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
李 仁子 東北大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (80322981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (30382005)
金谷 美和 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 外来研究員 (90423037)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 津波 / 被災地 / 被災者 / コミュニティ / 復興 / 局地的異文化 / 災害民族誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度に当たる本年度は、これまでに得られた調査データの不足を補ったり、研究期間中の変化を追うための補足調査や追加調査を主として行った。中でも、これまで調査を進めてきた津波被害が甚大な地区に隣接する、被害のほとんどなかった地区に対して行った補足調査は、隣接し合う両地区の古くからのつながりや交流を浮き上がらせると同時に、そうしたものを一瞬にして奪った大津波が被災者やそのコミュニティに与えた目に見えない疵痕の深さを明らかにすることができた。また、仮設住宅から復興住宅等へと被災者が移転する過程を追跡調査することによって、どのような機縁や理由で人と人のネットワークがつながるか、もしくは切れてしまうかを具体的な形で記録に残せた。他にも墓地の再整備や祭りの再興を通じて、ばらばらになったコミュニティが物理的な空間を越えて活性化される姿や、ボランティアの援助によって仮設住宅で始まった手仕事の集まりが人々の新たな紐帯を生み出すプロセスも、追加調査によって捉えることができた。 本年度はまた、補足や追加の域を越えるような調査を行う必要も生じた。その一つは、これまでの聞き取り調査では滅多に語られなかった津波被災直後の体験や状況を、数多くの被災者がまるで堰を切ったかのように語り始めたためである。予想外のことであったが、民族誌的データとしては非常に価値の高いものであり、あえて多くの時間を割いて聞き取り調査を行った。もう一つは、多くの犠牲者を出した大川小学校の遺族らと韓国史上最悪の海難事故とも言われるセウォル号沈没事故の遺族ら(亡くなった300名近くの高校生の保護者)が交流を持つようになり、その動きを同行調査することができた。大勢の子どもが同時に亡くなるという痛ましい経験を共有する遺族らの国際交流が互いに癒しをもたらすと同時に何を生み出せるか、今後の展開を見守っていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大震災の被災地では次々に新たな変化が生じており、5年が経った今もそれは変わらない。今年度は特に、数多くの被災者が被災直後の経験を問わず語りに語り始めたり、主たる調査対象にしていた大川小学校関連で大きな動きがあったりと、調査の進行に影響を及ぼすような変化が生じたため、当初予定していた補足調査や追加調査のスケジュール変更を余儀なくされた。そのため、科研費の補助事業期間延長制度を利用して、調査の一部を次年度に回すことになった。ただ、調査の主要部分はすでに完了しており、被災地の民族誌を記述するという研究目的に必要な資料とデータはほぼ十分なまでに得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず次年度に繰越した調査研究を着実に進めていく。特に、被災地支援を行う外部のコミュニティやNPOの本拠地を訪問し、被災地とつながることで何が生まれるか、被災地支援の継続に何が必要かといった視点からフィールドワークを行う。また、すべての調査データや記録を、調査に携わった研究者全員で整理・分析し、調査報告書の形にまとめる。さらに、それをもとにした被災地の民族誌を共同執筆する準備を進める。 また、本研究は次年度にて終了することになるが、被災地の復興プロセスは完了にはほど遠く、今現在も様々な変化が生じている。研究代表者の李は、最初の調査研究の対象である東京都荒川区周辺に集住する在日コリアンのコミュニティと20年以上にわたってつきあいを維持しており、そうした長期にわたる調査の継続が新たな研究の芽につながることを経験している。それゆえ、今回の調査地においても同様に長期にわたる継続調査(最低でも10年以上)を行うつもりでいる。そこで得られる民族誌的データや知見の蓄積は、地震大国である日本においていつか必ず役に立つと思われるし、また役立てるような形で研究成果を社会に還元していきたい。
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Causes of Carryover |
被災地で補足調査を進めていたところ、これまでの聞き取り調査では滅多に語られなかった津波被災直後の体験や状況が、堰を切ったかのように数多くの被災者から語られるようになった。予想外の急変ぶりだったが、被災地の変化を民族誌的に記録する本研究の目的にとってそこで語られる内容は第一級の価値を持つため、当初予定していた対象と主題を拡張した聞き取り調査を行う必要が生じた。その結果、今年度中に行うはずであった補足調査の一部を次年度に繰り越さざるを得なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
被災地支援を行う外部のコミュニティやNPOをその本拠地にて参与観察し、被災地とつながることで何が生まれるか、被災地支援の継続に何が必要かといった点を明らかにする。また、調査報告書作りに向けて、すべての調査データや記録を調査に携わった研究者全員で整理・分析する。
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Research Products
(1 results)