2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24330148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
有田 伸 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (30345061)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 順 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (30545653)
吉田 崇 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80455774)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 階級・階層・社会変動 / 報酬格差 / 比較社会学 / 東アジア / 経済社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は国際比較、特に東アジア比較の視点を生かしつつ、日本社会の報酬格差の特徴をあきらかにし、またさまざまな制度条件がこれらの報酬格差に与えている影響の解明を試みるものである。本研究の3年目となる平成26年度には、計3回の全体研究会と、延べ10回にわたる班別研究会を開催し、各自の研究課題と、本プロジェクトメンバーで行った共同研究の成果のとりまとめを進めた。具体的には、これまで本研究が進めてきた(1)社会学的パースペクティブに基づく所得格差分析、(2)雇用関係・人事制度・社会政策が報酬格差に及ぼす影響の解明、(3)雇用カテゴリーに報酬格差を連結させる社会学的メカニズムの解明、という3つの課題にそって成果をとりまとめ、国内外の学会・シンポジウムにおける報告と論文の執筆を行っていった。 本年度は特に、非正規雇用や移民・外国人労働者など、日本の労働市場の「周辺」に位置する就業者の報酬についての研究が大きく進展し、これらによって日本に特徴的な雇用関係や人事システムが、報酬格差の具体的なあり方をどのように形作ってきたのかをあきらかにすることに成功している。またこれらの諸要因の影響は、具体的には「格差の正当化」の機制を通じてより強固なものとなっており、日本の報酬格差の性格を十全に理解するためには、これらの機制に対する着目も必要であることが示された。 さらに日本の教育・選抜システムが報酬格差に及ぼすメカニズムの比較研究や、労働市場からの排除が労働者にもたらす影響についての実証研究も本研究プロジェクトの成果として産み出されており、またこれらの諸成果は、日本における社会階層・階級枠組自体を問い直そうとする試みとしても結実しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の共通基礎研究、二・三年目の班別研究、ならびにそれらに基づく各自の取り組み等によって、当初設定された課題は順調に達成されつつあり、本年度はその成果報告が国内外の学会・シンポジウムなどにおいて数多くなされた。具体的には、ISA横浜大会(5報告)のほか、ISAのRC28大会をはじめとする欧米で開催された国際カンファレンス(5報告)において、計10個の国際学会報告が行われ、「日本発の社会学研究の発信」という点でも大きな成果を得た。また北海道社会学会年次大会では、本研究の成果に基づいた特別セッション「『日本の不平等』を考えるあたらしいパースペクティブを求めて」が組まれ、本研究のよりまとまった形での成果報告も成すことができた。また本研究プロジェクトメンバーによる共同研究も複数立ち上がっており、順調にその成果がまとめられつつある。このほか国内の学会においても、メンバーによる個別報告がなされ、さらに成果の一部はすでに論文・図書の形で公刊されている。 以上の成果報告は、概して、オーディエンスの大きな関心・期待をもって迎えられており、社会階層研究の新たな地平を開いていくという本研究の目標は順調に達成されつつあるといえる。また国外の研究者からの関心も高く、今後の共同研究に対するオファーも何件か得ている。「日本発の社会学研究の成果を世界的に報告する」というねらいも着実に果たされつつあるものと評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる本年度には、これまでの3年間の研究成果、特に昨年度に行った学会・シンポジウムでの成果報告内容を基に、各自が論文・書籍原稿を執筆し、刊行を進めていくことが主たる活動内容となる。具体的には、研究代表者の手による単行本が、東京大学出版会より本年度中に刊行されることとなっている。さらにこのほか、各自の研究者がそれぞれ論文をまとめ、学術雑誌等の媒体に投稿する予定である。また研究代表者は、国際学会において本研究の最終的な成果報告を行うことが確定している。 さらに本研究プロジェクトに関する各自の研究論文をまとめた成果報告書をとりまとめ、刊行する。このために全体研究会を開催し、各自の草稿を持ち寄り、それに対するメンバー間での議論を行うことで、メンバー各自の論文間の相互連関を意識しつつ最終成果をとりまとめていく。 本研究は従来、平成26年度までの3か年にわたるものであったが、メンバー間での研究成果の相互作用の結果「報酬格差の正当化理論の構築」という新たな重要な課題の存在があきらかになり、この課題への対応のために、最終成果のとりまとめを本年度に繰り越すこととしたものである。この新しい課題の検討自体は昨年度まででほぼ完了しているため、本年度はその検討結果を組み込みつつ、以上の成果報告を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度中に、本プロジェクトの成果をすべて国際学会において報告する予定であったが、メンバーの研究成果と研究代表者の成果との相互関連性を検討する中で、新たに「報酬格差の正当化理論」の構築の必要性とその可能性が示された。 そのため、この報酬格差の正当化理論の構築とそれに基づく説明可能性の検討をまず平成26年度に取り組むこととし、研究代表者の国際学会での報告、ならびに最終成果報告書の刊行は、その成果を生かしつつ平成27年度に行うこととしたため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者による国際学会における成果報告を、平成27年7月に豪州アデレードで開催される"The 9th International Convention of Asia Scholars"にて行い、そのために出張旅費(30万円)を支出する。またこの成果報告のために英文校正を行い、その謝金(10万円)を支出する。 さらに最終成果報告書を印刷し、関係する研究者に広く配布する(20万円)。またこのために全体研究会を1度開催する(11万円)
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