2013 Fiscal Year Annual Research Report
震災等の被害にあった「社会的弱者」の生活再建のための公的支援の在り方の探究
Project/Area Number |
24330164
|
Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
土屋 葉 愛知大学, 文学部, 准教授 (60339538)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井口 高志 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (40432025)
岩永 理恵 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 講師 (60438166)
田宮 遊子 神戸学院大学, 経済学部, 准教授 (90411868)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 社会問題 / 社会的弱者 / 東日本大震災 / 脆弱性 / 複合的問題 / 政策提言 |
Research Abstract |
25年度は、被災地における「社会的弱者」をめぐる状況とその支援体制の変化を把握するため、宮城県(亘理郡山元町・岩沼市)、福島県(いわき市)、岩手県(釜石市)において、関係団体へヒアリングを行った。また岩手県沿岸部に居住する同一対象者に対し、「被災と生活困窮に関する質的調査」として、生活状況の変化や生活史に着目した継続的なインタビュー調査を行った。 さらに福島県いわき市保健福祉部等の協力を得て、応急仮設住宅団地等の居住者を対象とした量的調査を実施した。また継続的な調査への協力を承諾した回答者のうち脆弱性をもつ世帯を抽出し、災直後から避難所での生活、仮設住宅入居から恒久住宅への移行までのプロセスについて、これまでの考察から得られた指標を基に分析枠組みを構成し、インタビュー調査を行った。 インタビュー調査から得られたデータの一部を用いて、これらの世帯への災害の中長期的な影響を分析した。まず災害発生直後の混乱期を経て中長期的段階では、複合的な問題が集積することで生活上の困難が深まっていくこと、もともと脆弱性の高い人々は様々な資源を利用して日々の生活を成り立たせているが、そうであるがゆえに、災害による影響も多方面にわたることを確認した。そのうえで、被災前からの脆弱性と、災害とは無関係に発生した被災後の諸問題とが重なり合うことで、生活再建が阻まれている状況を掬いあげた。 今後は量的調査により得られたデータを分析することで検証結果を補強し、さらに「社会的弱者」への災害の影響について分析を進めていく。また、支援団体や政策担当者等とデータを共有し検討を行っていく予定である。こうした震災の中・長期的な影響の分析を行うことは、災害関連支援と社会保障制度の断絶と不整合の課題を明らかにし、平常時と緊急時の連続性と包括性をもった制度の検討・構築の一助となることが期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は、関係団体へのヒアリングを行うことにより、震災後2年目を迎えた被災地の状況の変化および支援体制の変化などを捉えた。また、岩手県沿岸部に居住する障害をもつ人への「被災と生活困窮に関する質的調査」(2年目)も予定どおりに行った。これまでの調査結果をふまえた分析軸を基に、生活状況の変化や震災以前の生活状況を聞き取り、見えづらい脆弱性をもつ世帯への災害の影響を明らかにした。 さらに福島県いわき市の協力を得て「質問紙調査」を実施した。今後このデータを用いた詳細な分析を行っていくが、「フォローアップ調査」の一環として、承諾を得られたいわき市の、脆弱性をもつ世帯へのインタビュー調査を開始している。これは、被災世帯が恒久住宅に移る前のタイミングでのアプローチが必要だったためである。さらに追加の継続的調査として、25年夏以降の生活状況の変化を尋ねるための質問紙調査の実施を予定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
26年4月から7月にかけては、前年度に行った3調査の分析を行う。とくに、被災と生活困窮に関する量的調査については、5月中にクロス集計等の基本的な分析を終えた時点で、フォローアップ調査で明らかにすべき論点を抽出する。7月中には調査票を発送し9月半ばまでに回収を行う。 26年8月には、いわき市における継続的な質的調査(2年目)を実施し、さらに10月には釜石市において継続的な質的調査(3年目)を実施し、分析を行う。 9月には震災を経験した母子世帯、障害者世帯等の当事者を招聘する座談会形式の研究会の開催を予定している。これにより脆弱性をもつ世帯のもつ困難をめぐる論点が、より明確化されることが期待できる。 26年12月からは、本研究の総括を行う。調査の分析結果を早い段階で各調査の担当者が粗いドラフトとしてまとめ、研究グループ内で討議、検討する。この段階で「社会的弱者」層が抱える問題群の抽出・分析から、最終的な目的である生活困窮を改善するための公的支援の在り方の提案内容を具体化する作業に入る。 なお26年7月には、第7回東海社会学会大会シンポジウム(於愛知県立大学)および11th East Asian Social Policy Conference(University of Hawaii at Manoa)にて、報告を行う予定である。さらに27年1月には、福祉社会学会との共催で、広く一般に公開する形での研究報告会を開催する。これらの場で得られた論点は、本研究費助成終了後の成果刊行等の研究活動に反映させ、調査の総括と政策提言を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は、業者に依頼する予定であった調査データの入力作業を、より正確に行うため、調査設計および実施に直接かかわった担当者の監督のもとで行うこととし、担当者と学生アルバイトが入力作業を行った。このため予算額と決算額とに差額が生じた。 被災の長期的影響を探るため、量的調査においても継続的調査(フォローアップ調査)を行うこととした。調査票印刷および郵送費に繰越金を使用する。また情報を発信するためのホームページを作成し、保守・運営のための費用にあてる。また研究会開催時の諸費用等に使用する予定である。
|
Research Products
(10 results)