2015 Fiscal Year Annual Research Report
秩序問題の解決法としてのサンクション行動の説明原理
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24330184
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 伸幸 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80333582)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会系心理学 / 社会的交換 / 進化 / ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間社会は非血縁間での大規模な相互協力により特徴づけられている。それを可能にするメカニズムとして最もよく取り上げられるのがサンクションである。当初は理論的には問題があるとされたサンクションだが、21世紀初頭には、実際に人々がサンクションを行使することが数多くの実験室実験により示されるようになった。しかし2010年代に入り、「実証された」と思われたサンクション行動には根本的な疑問が投げかけられるようになった。それは、これまで実験室において見られてきたサンクション行動は、それ以外に行動の選択肢が存在しないために現れているアーティファクトではないか、という疑問である。実際、一部の人類学者は、現在の小規模な狩猟採集社会では滅多に罰行動は見られないことを指摘しているし、ノーベル経済学賞受賞者であるOstromも、規範逸脱者に対しては言語による非難や仲間外れなどの手段が用いられることが多いと指摘している。従って、実験室で見られる罰行動は、無理矢理引き出されているものである可能性がある。しかし一方で、実験室内では罰行動が見られること、そして多くの研究者がそれを当然視してきたことは、罰行動が現実の解決策というよりは共有信念として存在している可能性を示唆している。実際、罰が行使されるとみんなが思っていれば、みんなが協力し、罰は実際には行使されないだろう。そのような共有信念が維持される仕組みとして、選択的相互作用が考えられる。27年度は、サンクションのある集団とない集団のどちらに属するかを自分で決定できる集団選択パラダイムを用いた実験を行い、罰が行使されるという信念を持つ協力的な参加者が罰あり集団に集まり、そこで相互協力が達成され、その後他の参加者も罰あり集団に移動するというパターンが見られた。即ち、「人々の行動は協力+罰である」という共有信念は現実により支えられたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
24年度はまずサンクション行動の個人内相関を検討する質問紙実験を行ったが、その結果があまり明確ではなく、サンクション行動は単独の共通する心理的要因によって引き起こされているかどうかという本研究の問いから更に遡って考える必要があることが示唆された。それは、そもそもサンクション行動の背後にはサンクションを行う共通した動機があるのかどうか、という点である。多人数での相互協力問題を扱う代表的な枠組みであるSDの研究では、SD行動は必ずしも単一の協力したいという動機により引き起こされるわけではないことが明らかになっている。同様に、サンクション行動も、動機以外の要因により引き起こされる可能性もある。この可能性を検討する実験を行い、確かに社会的動機以外の要因が罰行動に影響を与えていることが明らかにされた。また、罰行使の重要性は実験室内では誇張されており、他のサンクションの選択肢の方がより用いられやすいことも示された。これらの結果は、罰がそれ自体として相互協力達成に果たす役割に対して、根本的な疑問を投げかけるものである。26年度までの研究においてここまでが明らかとなり、27年度には自分の属する集団を選択可能な状況では、選択的相互作用の効果が強くなり、罰行使が共有信念として維持される可能性が示された。よって、27年度の研究により更に計画に遅れが生じたわけではないが、それまでの遅れを取り戻すには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、期間延長申請を行い、28年度に最後の研究を行うことを予定している。27年度には、サンクションが実際には行使されなくても、共有信念としての行使可能性のみにより相互協力が達成・維持されることを示すことを目的とし、サンクション制度のある集団とない集団のどちらか一方を選択する実験を行った。この実験により、罰行動の意味が明らかになると予想していたが、その結果は、罰のみ、あるいは報酬のみの制度よりも罰と報酬の両方が可能な制度の方が協力率を維持する機能が高いこと、そして集団間の分散が小さくなることを示した。このことは、罰の機能はそれを単独で扱っていては解明できず、他の制度との相乗効果を考える必要があることを示している。そこで28年度前半には、罰と報酬の相互作用効果を検討する追加研究を行う予定である。そして後半には、集団選択そのものの効果を検討する実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
24年度には、当初予定されていた、複数のサンクションの間に行動の一貫性が見られるかどうかを検討する大規模な実験室実験に着手する前に、そもそもサンクション行動がサンクションに対する選好により生じるのかどうかを検討する実験を行った。そのため、予定されていた大規模実験のための費用は25年度以降に回すことになった。25年度にはその新たな実験を行ったが、24年度から繰り越した分を消化するには至らなかった。26年度には、他の選択肢がある場合に罰行動が減少するのかどうかを検討する実験を行ったが、やはり繰り越し分はまた次年度に繰り越されることになった。27年度は、サンクションのある社会とない社会を選択可能な状況で、相互協力と罰が自発的に生じるかどうかを検討する実験を行ったが、26年度までの遅れを取り戻すには至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はまず、制度選択という要因を導入することで、サンクションの2形態である罰と報酬の間に相互作用効果があるかどうかを検討する追加実験を行う。その後、制度を選択可能かどうかという要因そのものの効果を検討する実験を行う。その間、27年度の研究結果を国際学会などで発表し、学術誌に投稿する。
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