2013 Fiscal Year Annual Research Report
災害スクリプトに潜む脆弱性の検討と対処行動の促進、リスク認知上の波及効果
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24330189
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 防災 / 減災 / リスク認知 / 避難 |
Research Abstract |
平成25年度は、災害対処を促進するための方策として「いまここで、目で見て手で触れる具体的なモノ」として対処法を提示することの効果を、解釈レベル理論を援用しつつ検討してきた。実験としては、地震災害時のための食料や保存水の備蓄促進をテーマとし、一般主婦を対象に実施した。2つの実験条件を求め、抽象的に備蓄の重要性を説明する条件と、具体的な保存食・保存水を手にとれる状態で備蓄の重要性を説明する条件とを設けた。その結果、後者の方が、実際の行動として保存食や保存水を選択しやすくなることが確認され、“いまここ”原理によって直面する問題に対処しようとする人間という視点が、災害リスクへの対処を促す上で重要であることが示された。 しかし一方では、地震災害発生の可能性や、起こる場合の地理的・時間的距離など認知的な側面に関しては、具体的接触条件と抽象的説明条件間で有意な差は見られなかった。この結果は、先の行動指標をとった結果と併せ考えると、具体的な接触が、リスク認知を介さず直接的に防災行動を導きうることを示唆するものである。災害情報提供がリスク認知を高め、その結果として防災行動がとられるという常識的な道筋が実は機能しないという、いわゆるリスク認知パラドクスが近年注目を集めているが、今回の結果もそれと整合する。従来の「意識を変えて、行動変容を促す」という防災のための基本方針の有効性に対して、新たな方略を要求する基礎的な知見を得たことが平成25年度の主要な実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究全体の目的は2つあり、1つ目は災害時における一連の行動やできごとについての主観的な予測、すなわち災害スクリプトを調査によって引き出し、そこに示されるサバイバル上の脆弱性を同定した上で、理論とエビデンスに基づいた対処行動促進プログラムを設計、実施することである。2つ目はそのようなプログラムの参加者となり、対象とする災害のリスクを軽減させた個人が、他のさまざまなリスクに対する認知や行動をどう変化させるのかを検討することである。当初計画で平成25年度は1つ目の目的に取り組むことになっていたが、実際に、実績概要に示した実験を実施し、対処行動促進のために考慮すべき問題、すなわち、いまここで、目で見て手で触れる具体的なモノとして対処法を提示することの有効性を確認するとともに、リスク認知に働きかけることの問題点を抽出することができた。以上が、達成度評価の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの成果を踏まえ、災害への対処促進プログラムの基盤となる心理学的な知見を精緻化させ、実証的な根拠を得るとともに、プログラムへの参加者や対処促進メッセージに接した人たちが、さまざまなリスクに対する認知や備えをどう変化させるのかを調べる。これにより、ある災害リスクへの備えを行うよう働きかけることが、リスク認知や対応行動全般へどのような波及効果をもたらすのか検討する。波及効果を検証するには対処促進への働きかけを受けていない一般市民の多様なリスクに対する認知を把握し、それと働きかけを受けた市民のデータとを比較する必要がある。そこで、無作為サンプリングによる社会調査を実施し、リスク認知についての代表性の高いデータを得る。さらに、地域の災害経験や防災対策が、それぞれの災害リスクについてのみならず、他の多様なリスクに対する認知にどう影響するかを定量的に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度において得られた成果をまとめ、平成26年度に海外の雑誌に投稿を予定していたが、研究の進展が予定より早く進み、論文を作成できる状況になった。そこで、英文校閲など投稿に要する費用として30万円を前倒し請求したが、論文の分量により3万144円残額が出た。これが次年度使用額が出た理由である。 平成26年度は数百万円単位の社会調査と実験を予定している。消費税増税や調査員の人件費高騰などにより研究費補助申請当時よりも調査コストは上昇しており、次年度使用分はそこで生まれる研究費の不足分を補うために充てる。
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Research Products
(5 results)