2015 Fiscal Year Annual Research Report
大正・昭和初期におけるリテラシー形成メディアとしての「副読本」の研究
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24330241
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
府川 源一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 名誉教授 (00199176)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国定読本 / 副読本 / 近代日本児童文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、日本読書学会において「学年別読み物集」の淵源とその展開」の題目で以下のような研究発表をすることができた。すなわち、「○年生向け(○歳向け)」のような読書対象を設定するためには、読み手が「学校」に通っていることが前提になる。その意味で「学年別読み物集」という存在は、子ども読者と近代学校制度との接点に生まれた副産物である。また、「○歳~△歳向き」のように読書対象を特定の年齢層に限定する場合にも、読み物の内容や表現と読者の発達との間になんらかの関係が想定されている。すなわち、子どもの「発達段階」の違いによって異なったレベルの読み物が存在する、あるいは子ども読者には「発達段階」に即した異なるレベルの読み物を提供すべきだという思考法である。こうした「学年別」の読みものの展開を具体的な例に則して考察した。 また、新美南吉顕彰会における講演の場で、新美南吉の作品の変遷を「童心」という観点から検討する機会もあった。ここでは、大正期に注目を浴びた「童心主義」の変容が、そのまま新美南吉作品の上に現れていることを、南吉の作品の表現をもとにしながら考察した。 以上のような口頭発表を重ねる一方で、本研究の中核となる「副読本」およびその関係図書の収集・整理・分析作業を着々と行ってきた。それらを年表の形でおおづかみに整理して大正期・昭和前期の教育文化史の中に位置づけると同時に、個別の副読本に関してもその特徴を記述する作業を進めている。ここにいたって、ようやくその全体像が見える段階に至った。今後はこれまでの個別の成果を近代言語文化と子どもたちのリテラシー形成との関連に配慮しながら、一連のつながりとして記述する作業が必要になる。
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