2013 Fiscal Year Annual Research Report
半導体表面、トポロジカル絶縁体表面およびそれらのヘテロ界面におけるスピン輸送
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24340069
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
有賀 哲也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70184299)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八田 振一郎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70420396)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / スピンエレクトロニクス / 超薄膜 |
Research Abstract |
第一に、Rashba効果によりスピン分裂した金属的表面状態バンドを有する系において、巨視的な電流がスピン偏極するか否かについての実験的検証を行った。本研究者らが開発した高精度電気伝導度測定システムを用いて、Pb/Ge(111)系の電流のスピン偏極度を測定した。考えうるあらゆる偽の異方性を排除するために7端子法を用いた。その結果、表面電流のスピン偏極度は10 Kにおいて0.001以下であると結論した。 第二に、Pb/Ge(111)系の電気伝導度について精密測定を行った。デバイ温度80 Kより下でシート抵抗率は温度に比例して減少し、フォノン散乱により支配されていることがわかる。10 Kでのシート伝導率は10 mSであった。これはSi(111)表面上のPb多層膜(約8層)と同程度であり、単原子層における特異的伝導特性が発現していることを示している。その原因を理解するために、電子-フォノン結合定数の決定を進めた。輸送特性から求めた電子-フォノン結合定数は非常に小さく、予備的な角度分解光電子分光実験により求めたものの約半分である。このことは、この系において伝導電子の後方散乱が抑制されていることを示しており、Rashbaスピン分裂した系に特有の現象であると理解される。現時点では、2つの方法で求めた電子-フォノン結合定数の差が有意であることを検証する必要があるが、スピン偏極方向の異なる状態間の散乱確率について、従来の素朴な理解を越えてより厳密な理論が必要となる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Pb/Ge(111)表面の電気輸送に関する精密測定により、この系が予想外に大きな電気伝導度を有すること明らかにし、しかも、それがスピン依存した後方散乱確率の異常に由来することを示せた。これは、当初の計画を上回る重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、角度分解光電子分光による電子-フォノン結合定数の精密決定を完成させ、輸送特性から求めた値との間に有意な差があるか否かを確定する。もし差が有意であれば、スピン依存後方散乱確率について理論家との共同研究等を通して明らかにする。 第二に、表面2次元金属における近藤効果について検討する。表面の2次元電子系に微量の磁性不純物を加えた際の近藤効果については実験的に明確な結論が得られていない。とくに、Rashbaスピン分裂した系において近藤効果が生じるか否かについては、理論家の間でも見解の対立がある。この問題について実験的に明確な結論を得たい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していたターボ分子ポンプ等の物品について、既存の物品を流用することができたために、一部を次年度使用額とした。また、H25年度の結果を踏まえて、次年度より実験装置の構成を変更する必要が生じ、これに必要な額についても次年度使用額とした。 翌年度分として請求した研究費と合わせて、H26年度においてUHV蒸着源等の購入などに使用する。
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