2013 Fiscal Year Annual Research Report
近接場光励起による電子スピン分極発生を利用した界面磁気共鳴法の開発
Project/Area Number |
24350004
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
河合 明雄 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (50262259)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | エバネッセント光 / 近接場光 / 固液界面 / 電子スピン分極 / 可視紫外吸収スペクトル / 磁気共鳴 / 電荷移動 / 回転拡散 |
Research Abstract |
固液界面近傍液体での空間選択的吸収スペクトル測定を効率的に行うため、エバネッセント光による分光装置の新設を行った。高い輝度のプローブ光源および高い検出感度のCCD分光器を予算措置によって導入した。モデル計測実験では、イオン液体のバルク層におけるイオン対内電荷移動(CT) 相互作用に着目し、イオン対の電子状態解明に資するデータの取得を行った。ハロゲンアニオンとイミダゾリウムカチオンから成るイオン液体では、アニオンの強い電子ドナー性によるCT吸収バンドが紫外領域に観測される。イオン対に帰属されるCT吸収のバンド波長や強度は、イオン対の相対配置などを反映する。これまで、イオン対は明瞭な安定配置をもたずランダムに配置分布した衝突対の存在が考えられている。CTバンドから得た情報は、このようなイオン対構造を支持する。一方、イオン液体に希釈した色素のCTバンド計測を、Kosower塩をモデルとして行ったところ、CTバンドの特徴が、Kosower塩の濃度に依存することを見出した。これは、安定な配置をもつ錯体と、ランダム配向の錯体の存在比がKosower塩の濃度に依存するためと解釈した。この系を、製作した装置を用いて界面近傍領域でCTバンド測定したところ、バルク層の濃度依存性と変わらないことがわかった。これは、界面近傍領域の液体物性が溶質環境に与える影響がバルク層と同じであることを示唆し、イオン液体自体のCTバンドと異なっていた。この原因について理論的に考察している。 吸収スペクトル測定研究と並行し、エバネッセント光で界面近傍液体中の溶質を励起し、その際に生じる電子スピン分極をEPR観測する方法も、装置設計を進めた。共振器中に設置できるエバネッセント光励起用セルを開発するため、細分に渡った設計を行い、製作発注を行う最終段階まで進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
界面近傍における液体の物性を反映すると思われる、複数種類の電子吸収バンド測定に成功した。特に、イオン液体中でのイオン対のCTバンドの振る舞いと異なり、Kosower塩のCTバンドが界面依存性を示さなかったことが、界面近傍領域の理解に大きく寄与する新たな結果であった。これらの違いを考察することで、信頼度の高い界面近傍領域の液体物性の理解がすすむと思われ、吸収スペクトル測定については、予定より速く進んでいると判断している。界面近傍溶質のエバネッセント光励起による電子スピン分極発生と、それを利用したEPR観測については、共振器内に設置するセルの設計に時間を要した。この点に関しては、研究の進展が若干遅れ気味と判断している。以上を総合的に考えて、おおむね予定通りとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
吸収分光計測に関しては、界面近傍液体を選択的に観測する高感度な分光装置の開発にほぼ成功したと考えている。したがって、得られた特殊な吸収スペクトルの理論的な解釈を進める。また、界面近傍液体の物性が、化学反応にどのような影響を与えるか解明することが重要なポイントである。この目的のために、界面近傍液体領域におけるレーザー誘起光化学反応を研究対象として、時間分解過渡吸収測定をエバネッセント光プローブで行う。そのために、プローブ光の検出器として時間分解測定感度を高めたインテンシファイア付CCD検出器を導入(現有設備)する。これにより、界面近傍液体領域における励起分子や過渡種の吸収スペクトル時間変化を測定し、反応中間体の同定や反応速度定数の決定を行う。この結果をバルク層における同じ反応系の結果と比較し、界面近傍液体の特異な物性に支配された特殊な化学反応ダイナミクスについての解明を進める。得られた結果をもとに、界面近傍領域の化学反応全般についてその特徴の総括と有効利用に関する提言を行いたい。 界面近傍液体中のスピン分極発生については、セルの製作を速やかに終了し、観測実験を行う。実際に回転速度など拡散運動の特異性についての知見を収集し、界面近傍液体中の分子運動のダイナミクスについての議論をすすめる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2年目に予定していた、電子スピン分極を利用した界面近傍液体中の溶質のEPR測定を行う装置製作で、共振器内に設置するセルの製作費分が繰越となった。セルの設計が若干おくれたため製作が年度内に執行不可能となったため、製作を翌年度に繰り越した。 セルの製作費以外の部分では、おおむね計画通りであるため、他の予算使用計画には影響しない。当初の予定通りに予算を使用する計画である。
|
Research Products
(10 results)