Research Abstract |
優れた電子受容性をもつπ共役化合物の開発は有機エレクトロニクス分野の発展において重要であるが,その分子設計の指針はπ共役骨格への電子求引基やヘテロ原子の導入が主流となっている.これに対して,フラーレンは5員環/6員環の縮合により高い電子受容性をもち,この特長を活かした材料として利用されている.本年度は,フラーレンがもつ高い電子受容性の鍵骨格としてピラシレンに着目し,そのπ共役系をベンゾ縮環により拡張したテトラベンゾピラシレン誘導体について,合成,構造,芳香族性および性質に関する研究をおこなった. テトラベンゾピラシレン骨格は,5,11-ジフェニルテトラセンの分子内環化反応により構築できると考えた.そこで,塩化鉄(III)を酸化剤に用いた反応条件を検討した結果,塩化鉄(III)を室温で15当量用いた場合に,両側のフェニル基が分子内で環化した目的の誘導体が濃青色固体として92%収率で得られ,構造を単結晶X線構造解析により決定した. NMR測定およびNICS(nucleus-independent chemical shift)計算の結果,テトラベンゾピラシレンは,単なるπ拡張型テトラセンではなく,π拡張型ピラシレンとしての特徴をもつことが示された.また,ジクロロメタン溶液中でのサイクリックボルタンメトリー測定の結果,テトラベンゾピラシレン誘導体は可逆な二段階の還元波を-1.30Vおよび-1.76Vに示し,第一還元電位は5,11-ジフェニルテトラセンより0-81V正側にシフトした.この値は,フラーレンC60の第一還元電位(-1.09V,オルトジクロロベンゼン中)に近いことから,ベンゾ縮環型ピラシレン骨格が高い電子受容性をもつことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,電子受容性分子であるフラーレンの鍵骨格を抽出し,そのπ共役を拡張することにより新しい電子受容性物質群を創製しようとするものである.H24年度は,反芳香族性をもつことが知られるピラシレンに着目し,そのベンゾ縮環型分子を高収率で合成する手法を確立した.ヘテロ芳香環の縮環体のみでなく,ピラシレン縮環型オリゴマーやポリマーなど,π共役ナノリボンやシート状物質の創製にもつながる知見が得られたと期待する.
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度は,前年度の研究を引き続き推進するとともに,電子受容性のピラシレンが一次元に縮環・配列したπ共役ナノリボンの創製へと展開する.得られる物質群は,電子受容性をもつことに加え,共役した5員環が一次元に並んだ構造をもつ.還元状態での5員環部分に対する遷移金属の結合,具体的にはフェロセン型多核錯体の合成について検討し,性質を解明する.
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