2013 Fiscal Year Annual Research Report
メソ細孔内過冷却水を反応分析場とする低温生化学実験系の構築
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24350034
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
山口 央 茨城大学, 理学部, 准教授 (10359531)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メソ細孔 / 過冷却 / タンパク質 |
Research Abstract |
分子生物学の基本問題であるタンパク質の構造と機能を解明するための新しい実験系を開拓するのが本研究の目的である。具体的にはメソ細孔内過冷却水の環境と物性(粘性、pH、酸解離、分子拡散など)を精査することで、メソ細孔内低温反応場の学理を探究する。また、モデルタンパク質を用いて提案する低温生化学実験系を構築すると共に、未知のタンパク質機能の研究に本実験系を適用し、本実験系の汎用性と優秀性を提示することを目指している。平成25年度は以下の研究課題について検討を行った。 【メソ細孔内過冷却環境の評価】分子の酸解離挙動、pHと極性環境は、タンパク質の構造と機能に密接に関わるが、メソ細孔内部におけるこれら諸特性、特に酸解離とpH環境についてはほとんど分かっていない。本年度は、未修飾シリカメソ細孔内部のpH環境を調べるために適切なpH指示薬(ポルフィリン誘導体)の合成と評価を行い、未修飾メソ細孔内過冷却水中における酸解離挙動の解明を行った。その結果、pH指示薬の酸解離の抑制が観測された。これは、シリカ表面における解離したシラノール基との静電相互作用による酸型の安定化に起因すると考えられる。シリカメソ細孔内部におけるリパーゼによるエステル分解反応においても、基質の酸解離挙動について同様な結果を得た。 【メソ細孔内低温生化学実験系の構築】光捕集複合体の一種であるLH2は膜タンパク質の一種であり、約27個のバクテリオクロロフィルaを有するために、800 nm周辺に存在する2つの光吸収帯をモニターすることで、立体構造変化に関する情報を得ることができる。そこで、紅色光合成細菌由来のLH2をシリカメソ細孔内部に吸着させ、過冷却水中での立体構造変化について分光学的に測定した。その結果、シリカメソ細孔内でLH2の構造安定化が起こらないことがわかった。さらに、固体基板上においては、90℃程度までLH2の熱変性が起こらないことも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、金属酸化物からなる均一メソ多孔体(細孔サイズ:数~数十 nm)内に発現する過冷却水を『低温反応分析場』と位置づけ、タンパク質の立体構造変化、反応中間体、活性を解明するための『低温生化学実験系』の構築を目標としている。そのためには、シリカメソ細孔内部におけるタンパク質構造の検証、その後に構造と機能の相関を検証することが求められる。そこで、光捕集複合体の一種であるLH2をモデルタンパク質として、その構造と機能をシリカメソ細孔内部で検証することを昨年度までに行ってきたが、LH2がシリカメソ細孔内で特異な構造安定性を示さないことが分かり、モデルタンパク質として適さないことが分かってきた。 そこで、タンパク質より構造が簡単なDNAをモデルとして、シリカメソ細孔の構造とDNA高次構造安定性について現在、検討を進めている。 細孔内特異環境の解明については当初の予定通り進んでいるが、タンパク質構造と機能については、上記の通り、モデルタンパク質として予定していたLH2について予想外の結果が得られたために、研究課題の再構築が必要となっているために、達成度において若干の遅れがでている。
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Strategy for Future Research Activity |
メソ細孔内過冷却環境の評価については、昨年度までに酸解離挙動を観測するために必要なpHプローブの合成とそれを用いた評価を室温で行ってきた。今後は、合成してきたpHプローブを用いて、過冷却条件での酸解離挙動の解明を進めていく。また、過冷却条件での錯形成反応についても検討を進めていく。 メソ細孔内低温生化学実験系の構築については、モデルDNAを用いた検証から目的とする研究課題の達成を図っていく。これまでに、予備的な結果として細孔内過冷却環境における特異なDNA高次構造形成に関する知見を得ており、それを発展させることで、『低温生化学実験系』としてのメソ細孔内過冷却環境の有意性を確認していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
モデルタンパク質として予定していたLH2によって、細孔内過冷却環境下でのタンパク質構造と機能について検証する予定であったが、LH2がモデルタンパク質として適さないことが分かり、研究計画の再構築が必要となったためである。 DNAをモデルとして、細孔内過冷却環境下の優秀性を検証していく予定であり、そのために必要な合成DNA、試薬など消耗品の購入のために使用する予定である。
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