2013 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡液体界面における階層的分子鎖熱運動特性と機能化への展開
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24350061
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20325509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松野 寿生 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50376696)
織田 ゆか里 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (20625595)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高分子 / 液体界面 / 分子鎖熱運動性 / 界面選択分光 |
Research Abstract |
高分子材料はしばしば液体や固体等の異種相と接した状態で利用される。例えば、分離膜やバイオチップ等は液中で使用され、光電変換素子や無機フィラーとの複合には、(高分子/固体) 界面が存在する。高分子材料の機能特性は、これらのような界面を介して発現する。したがって、材料に望みの機能を付与するためには、界面における高分子の振る舞いを正確に理解し、制御する必要がある。界面に存在する高分子鎖はバルク中のそれと比較して異なったエネルギー状態にあるため、一般にその凝集状態、ひいては物性も異なる。本年度は、非溶媒との接触によって誘起される高分子膜表面の構造再編成および界面機能化の試みとして、キラル高分子膜の不斉識別表面について検討した。 試料として、単分散のPMMAを用いた。PMMA膜表面に着滴した純水の接触角の経時変化を測定した。接触角は着滴直後から時間に対して指数関数的に減少し、その後、単調に減少した。 接触角の指数関数的な減少を定量的に議論するためフィッティング解析により、緩和時間を評価した。解析の結果、値は1.8 sであった。PMMA膜表面の濡れ性変化を検討するため、和周波発生分光 (SFG) 測定を行った。空気界面のスペクトルにおいて、2908 cm-1、2936 cm-1および2955 cm-1の波数にピークが観測された。これらのピークは、それぞれ主鎖のメチレン基のCH対称および逆対称伸縮振動、側鎖のエステルメチル基のCH対称伸縮振動に帰属できる。水界面においては、メチレン基に由来するピークが消失し、エステルメチル基のピークのみ観測された。この結果は、親水性であるカルボニル基が水界面に配向することによって、メチレン基がランダムになると考えれば説明できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高分子膜表面の構造再編成とそれを利用した不斉識別について紹介した。水はPMMAの典型的な非溶媒である。しかしながら、PMMA膜の最表面における局所コンフォメーションは、水の存在によって大きく変化した。また、この現象を利用して、液体の光学純度に応じて濡れ性を変化させる不斉識別表面を構築した。一般に、固体表面における不斉識別は分子レベルで行われるため、巨視的な濡れ性の変化に反映されない。したがって、高分子界面の構造・物性制御は、材料の機能化に対する有用なアプローチといえる。これらの成果は、化学分野で最も権威のある雑誌の一つであるアメリカ化学会誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度も非溶媒界面における高分子の構造・物性解析を継続しつつ、その制御法を確立し、機能化への展開を図る。 水界面での溶解・膨潤層においても、さまざまな時空間スケールの高分子ダイナミクスが存在する。静的接触角θの時間変化を評価することで緩和時間tを決定できる。θの減衰は膜最外層に存在する分子鎖の局所コンフォメーション変化に起因する。したがって、θの時間依存性を温度の関数として測定することで、緩和時間の温度依存性を評価する。また、蛍光色素をラベル化したPMMAの超薄膜を調製し、PMMA薄膜上に移し取ることで、膜最外層にのみ色素が導入されたPMMA膜が調製できる。励起パルスを試料に照射し、蛍光強度の時間変化から蛍光寿命を評価する。蛍光偏光解消も測定し、その緩和時間を評価する。蛍光寿命および偏光解消の緩和時間を温度の関数として測定することで、非溶媒界面における分子鎖熱運動のレオロジー解析が可能となる。さらには、ラベル化PMMA膜の厚さを制御することで、分子鎖熱運動の深さ依存性も明らかにできる。また、分子量、分子量分布、末端基、立体規則性等の高分子の一次構造を変化させることで、界面構造およびダイナミクスの変化を観測し、それらの制御法を確立する。また、多分岐高分子を少量添加することにより、界面構造・物性の制御も試みる。また、アルブミン、イムノグロブリンG、ミオグロビンの三種を用いて、タンパク質吸着実験を行う。体液と接触する界面の構造を可能な限り厚くし、そのダイナミクスをタンパク質の拡散にチューニングすることで、タンパク質吸着の制御を試みる。 「以上の研究」を遂行することで「高分子化学」の発展へ大きく貢献し、ひいては社会経済へ多大なインパクトを与えることができると確信している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入予定であった消耗品の納期が遅れたため。 次年度前半に納入予定のため、納入次第使用する。
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