2014 Fiscal Year Annual Research Report
有機小分子に誘発される発光性ナノ金属種の自己集合を利用した機能開拓
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24350063
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小西 克明 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (80234798)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子認識 / クラスター / 発光 / センサー / 自己集積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「PEG修飾型発光性ナノ金属種(クラスター)の自己集積体」の形成機構を解明するとともに、「自己集積化にともなう発光増強」を利用して化学センサーなどに応用可能な特異な応答性を示す機能物質を創出することを目的とする。昨年度の研究では、特徴的な発光性を示す硫化/セレン化カドミウムクラスター群を無機コアとして様々な鎖長を有するPEGで表面修飾された一連の水溶性クラスター群の電子特性に関する検討を行い、無機コア由来の吸収スペクトルがPEG鎖長に強く依存することを見いだした。一般にクラスター化合物の電子的性質はコアのサイズと構造に強く依存することが知られているが、本系では取り囲む有機部位の性質が重要であることを示しており興味がもたれる。そこでこれらの赤外吸収スペクトルを測定し、PEG鎖のコンホメーションの検討を行ったところ、鎖長が短い場合にはトランス配座が優勢であるのに対し、鎖長が長い場合にはゴーシュ配座が優勢となることが判明し、こうした配座構造の違いがもたらす双極子モーメントの相違がクラスターコア由来の電子構造に影響を与えたものと結論した。一方、親油性フェノールをはじめとする、各種の有機ゲストに誘起される集合体形成活性および発光応答性を評価したが、それらにはPEG鎖長依存性はほとんど観察されなかった。これらの検討と並行して、集合体形成にともなう発光増大を利用したセンシング系の構築を目指して、標的物質との相互作用を通じて架橋構造が誘起するような分子修飾や架橋重合による発光性ナノゲルの構築を試みた。しかし、直接の分子修飾や機能性・反応性官能基を導入したPEG誘導体の分子設計が予想以上に困難であり、当初の補助事業期間内に完遂することはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、昨年度までに確立されたクラスターの集積化とそれに伴う発光増強に関する知見を基盤として、クラスターの集積化を誘起する分子認識ユニットや架橋重合性官能基を戦略的に組み込んだPEG修飾クラスターを合成し、特定のゲストに対して選択的に発光応答する系の構築を目指した。しかし、昨年度に見いだされた吸収スペクトル特性のPEG鎖長依存性が極めて想定外であり、過去にもそうした現象は知られていないことが判明したため、本年度にも並行して追加検討を行い、取り囲む有機部位の極性が大きなファクターであることを明らかとした。これはクラスターの機能化戦略において重要な知見を与えるものであり今後の展開が期待できる。一方、本研究で主目的としていた特定のゲストに特異的に応答するセンシング系や発光ナノゲルの構築については、配位子合成や誘導化が予想以上に困難であったため、当初の計画を変更し別ルートの検討を行う必要があり、平成26年度中に研究を完了することはできなかった。そこで次年度まで補助事業期間を延長し研究を完遂する。よって予定よりやや遅れたが、見通しはたっており、平成27年度末までに結果のとりまとめ、論文発表、学会報告まで完了させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を基盤として、標的物質との相互作用を通じて架橋構造が誘起するような官能性ポイントや架橋重合性基をクラスター表面に戦略的にくみこみ、センシングなど応答機能の展開を図る。昨年度にこうした分子設計戦略の鍵である中間体となる配位子の合成を種々検討した結果、合成ルートについてはほぼ目処がたったので、各種の機能化クラスターへの誘導を検討する。具体的には、これまでに成功しているボロン酸部位を導入したクラスターの糖に対する発光応答活性にならって、ダイオキシン系の環境汚染物質、アドレナリン、セロトニンなどの生体関連小分子を、π相互作用や静電相互作用などを通じて多点で認識、捕捉し、集積化を促進する系の構築をめざす。また架橋性官能基を外表面に有するクラスターをゲストによって集積化後、共有結合的に架橋重合させて、全体としての構造を緩くロックしたあとゲストを脱離させる。こうして得られたクラスターナノゲルの構造を電子顕微鏡や動的光散乱などを用いて調べて、もとの構造からの変化を考察するとともに、種々のゲストの取込み活性およびそれに応答した発光強度の変化を評価する。
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Causes of Carryover |
平成26年度はこれまでに蓄積されたナノ金属種の集積化と光学応答に関する知見をもとに、標的物質との相互作用を通じて架橋構造を誘起するような分子修飾や架橋重合によるナノゲルの調製を行うことで、センシングなど応答機能の展開を図り、年度内に論文、学会発表を完了する予定であった。しかし、分子設計戦略の鍵である中間体となる配位子の合成が予想以上に困難で、当初の計画を変更し別ルートの検討を行なうこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
合成ルートの再考で相互作用部位や重合基を含む有機配位子の合成の目処がたったので、次年度には目的とするナノ金属種(クラスター)への誘導や架橋重合によるナノゲルの調製を可能な限り早く完了させる。さらに各種ゲストへの応答特性を評価し、その結果を原著論文、学会で発表する。物品費はラボでの実験消耗品に、旅費は国内、海外での成果発表に、その他経費は論文校正や投稿料等のために用いる。
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