2013 Fiscal Year Annual Research Report
光励起高スピンπラジカルのダイナミックスを利用したスピントロニクスへの展開
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24350076
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
手木 芳男 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00180068)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣津 昌和 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30312903)
伊藤 亮孝 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20708060)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 光励起状態 / 高スピンπラジカル / ペンタセン / 安定ラジカル |
Research Abstract |
励起高スピンπラジカル系をスピントロニクスへと展開させる目的で、24年度にπラジカルに電子ドナー性を付与する目的でペンタセン‐フェルダジルラジカル系及びペンタセン‐ニトロニルニトロキシドラジカル系を合成してそれらの基礎的性質を調べた。申請書に記載した実施項目にそって以下の研究を実施した。 (1)本年度は、それらが著しい光耐久性を示すことを実証し、その機構としてペンタセン部位の光励起一重項が、ラジカル付加により非常に高速に励起三重項に転換する事を、超高速過渡吸収分光測定により解明した。 (2)ペンタセン‐安定ラジカル系を用いたスピントロニクスへの展開にとり、分子の結晶状態でのパッキングが重要になってくる。このため三重結合を介してペンタセン部位と安定ラジカルをつないで立体障害を軽減した分子を設計し、その合成をおこなった。最終化合物の存在は質量分析とESRで確認できたが、単離には成功しておらず、現在目的物の単離を試みている。 (3)凍結溶媒試料での過渡吸収等の光学スペクトルの温度変化測定を目的としてフラッシュランプと同期した装置を組み上げ、室温溶液状態での試験を行った。 (4)カテコール部位を持つ励起高スピンπラジカル配位子を構築するための前段階として、カテコールにアントラセンを導入した化合物を合成した。この化合物とトリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPA)あるいはその誘導体を組み合わせてコバルト錯体を合成し、磁化率の温度変化等を測定することにより、それらの電子状態を調査した。TPA配位子を用いた場合はCo(III)カテコラート錯体が得られ、TPA上に3つのメチル基を導入した場合にはCo(II)セミキノン錯体が得られた。また、TPA上のメチル基の数が1または2の場合は原子価互変異性を示すことが明らかとなり、さらに、光誘起原子価互変異性(LIVT)も観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度末に見出したペンタセン-安定ラジカル系の顕著な光耐久性を実証し、その機構を超高速過渡吸収分光により解明した。この部分は、当初の研究計画を越えてそれ以上に進展した部分である。 一方、πラジカルの光励起量子混合状態を研究するモデル系の光励起状態で期待される量子混合状態と励起状態スピンダイナミックスの解明は研究計画どうりには進展せず遅れている。しかしそれ以外の部分は少しの遅れは出ているもののほぼ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ペンタセン-安定ラジカル系の研究が順調に且つ、予想外の成果も出て進展しているのでこの方向の研究をさらに発展させていく。 一方、やや遅れ気味の部分に対しては、たとえば溶解度等の問題(またはもともと異常分極自体が小さい等)で時間分解ESR信号が検出できなかった課題等は、凍結グラス溶媒の選択や、系の改良を進めていく予定である。 最終目標は、申請タイトルに示した「光励起高スピンπラジカル系のダイナミックスを利用したスピントロニクスへの展開」を図ることであるので、予想外の成果も得られスピントロニクスへの展開の糸口がつかめようとしているペンタセン-安定ラジカル系の研究の比重を大きくして展開を図っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「直接経費次年度使用額」が37万円程度出たが、これは寒材の使用等を節約したためである。翌年度の研究費と合わせた使用計画については、当初と殆ど変更は無い。 未使用額は、37万程度であるが、本年度は低温実験が増えると予想され、また国内外の国際会議で成果発表も計画しており、ほぼそれに使用する予定である。それ以外の使用計画については、当初と殆ど変更は無い。
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