2014 Fiscal Year Annual Research Report
インフルエンザウィルスの大流行を阻止するスーパー抗体酵素の創製
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24350085
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
一二三 恵美 大分大学, 全学研究推進機構, 教授 (90254606)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | インフルエンザウィルス / 抗体酵素 / 感染抑制 / 核酸分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト抗体軽鎖ライブラリーを用いてスクリーニングを行う中で、軽鎖タンパクが構造多様性に富むこと、この問題の解決に金属イオンを取り込ませる手法が有効であることが明らかになってきた。高い活性を持つ構造への均一化は重要な課題であることから、H26年度は主にインフルエンザウィルスに対して効果を示しているクローンについて、構造均一化のための精製方法の改善と、作用機序の検討を行った。 1, Tクローン:構造均一化のための精製方法として、金属イオンを取り込ませる方法についての条件最適化を実施した。その結果、大腸菌から可溶性画分を調製する段階と、一次精製後の軽鎖画分に対して塩化銅処理を施すことで、電荷の揃ったdimerを得られることが分かった。この方法で精製したTタンパクはin vitro assayでH1N1型ウィルスのMDCK細胞への感染を35%程度抑制した。また、このクローンは免疫学的にはウィルスHAと反応する一方で、タンパク分解能は持たずに、核酸分解能を有することが明らかとなった。これらの結果から、TクローンはウィルスHAに結合してエンドサイトーシスによりウィルスと一緒にMDCK細胞に取り込まれ、酸性条件下でエンドソーム膜とウィルス外膜の膜融合が起こる時にHAから離れ、ウィルス核酸を分解していると考えられた。 2, Dクローン:In vitro assayにおいて、Wild typeよりもMonomer mutantの方が高い効果を示すことが分かった。 3, Jクローン(マウスH鎖型):高い酵素活性を持つクローンであることから、大腸菌での発現を試みた。種々のConstructを用いた発現実験から、この遺伝子を組み込んだ大腸菌の生育は非常に悪く、封入体形成が進み、可溶性画分へは殆ど発現していない場合には菌が生育出来ることが分かった。封入体からのrefoldingについての検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
抗体タンパクが構造多様性を持つこと、および金属イオンが関与する傾向にあることは経験的に分かっていたことであったが、これまでは分画により対処せざるを得ない状況にあった。精製方法の改良により、収量が増えると同時に変異体を用いた解析実験の精度が大きく向上した。特にTクローンについては、分子モデリングの結果や免疫学的反応性から予想していたタンパク分解能は持たず、酸性条件下で核酸分解能を示すということが明らかとなった。タンパク分解を想定して作製した変異体もペプチド基質を分解せず、核酸分解能を示した。変異体と野生型では、核酸分解の最適条件や強さに差が認められており、活性部位の同定に繋がる成果である。 精製方法については、一部のクローンについて実施したサイズ排除クロマトグラフィーの結果から、電荷を均一化した後も複数の構造成分を含むことが分かってきた。これは、「分子サイズを揃えれば、構造はほぼ均一化出来る」ということを示しており、結晶化と構造解析を視野に入れた検討が進められるようになった。当初計画とは異なる点での成果であるが、重要な知見である。 軽鎖タンパクの構造多様性とは異なる問題として、遺伝子工学的な作製において、稀に大腸菌の生育が芳しくないケースがあった。これまでは、この種のクローンは取り扱いを避けてきたが、酵素活性が高いことが大腸菌の生育を妨げている可能性があると考えていた。マウスH鎖型のJクローンは、封入体を形成して可溶性画分への発現が認められない場合には、菌体の生育が認められることが分かったことから、封入体からの精製を試みており、濃度の低い条件下ではrefoldingが出来る様になった。 外部委託に関して予定していた学内関係箇所との調製をペンディングした状態であるが、精製方法や個々のクローンに関する解析は順調に進んでいるので、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は最終年度に当たるため、これまでに得られた知見の中から、特に重要な「軽鎖クローンの構造均一化に関する知見」を生かして、既に取得済みの抗インフルエンザウィルス活性を示す抗体酵素に関する機能解析を中心に押し進め、最終的には研究期間全体を通した成果を取り纏める計画である。 1, Tクローンの機能解析:In vitro感染抑制実験ではH1N1型ウィルスに対する効果が認められているが、ウェスタンブロッティングではH3N2型ウィルスへマグルチニンにも僅かな反応が認められている。作用機序の推定結果から、H3N2型HAに対する親和性、もしくは核酸分解活性の向上がH3N2型ウィルスへの効果に繋がる可能性がある。そこで、本クローンのインフルエンザウィルスに対する免疫学的反応性と核酸分解能について、反応部位の解析を含めた詳細な作用機序の解析を行う。 2, 他のクローンの機能解析:Monomer変異体がより効果的であったDクローンや、改良前の精製手法で効果を示していたクローンについては、改良法での精製を行い、各種活性試験を再度実施する。封入体からのrefoldingを検討しているJクローンについては、得られるタンパク濃度が低いことから、より高い濃度での取得を試みる。 3, in vitro assay系の改良:現在はH1N1型、H3N2型ともに広島株を用いたプラークアッセイによる試験を実施している。標準的な方法に従って6穴プレートを用いると、一度の実験で取り扱うプレートの数が多くなり、データ精度に影響していると思われる。プラークアッセイによる軽鎖クローンの評価がより正確、且つ効率的に行える様に、実験条件の改良を行う。 4, in vivo assay:全ての試験結果からin vivo assayに進めるクローンを選択し、関係箇所との調整を行って、外部委託による試験を実施する。
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Causes of Carryover |
今年度は実施困難になっているin vivo実験について、関係箇所との調整を行って、専門機関へ外部委託する計画であった。しかしながら、抗体酵素研究において長年の課題であった「構造の均一化」に関する検討が進展したことから、in vivo実験は、より理想的な精製方法で取得・機能解析を行った軽鎖クローンに対して実施することが望ましいと考えて、精製方法の改良と評価に重点を置いた。また、本年度から学生数が約半分に減少したため、計画を遂行するためにポスマス研究員を雇用(半年間)し、賃金にも予算を割いた。ポスマス研究員は平成27年度も半年間の雇用を計画しており、本課題採択当初の計画からの予算計画が必要となっている。これらのことから、クローンの絞り込みを十分に行った上でin vivo実験を行ないたいと考えており、その費用を平成27年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度は最終年度であることから、研究期間で得た抗インフルエンザウィルス活性を持つ抗体酵素の最終的な機能評価として、in vivo実験を行う必要がある。客観的、かつ正確な評価が必要となるので、専門の外部機関への委託を計画している。また、ポスマス研究員を半年間雇用する計画なので、昨年度から繰り越した予算の120万円をin vivo実験の費用に、100万円を人件費の一部(平成27年度人件費の半分)として使用する計画である。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] スーパー抗体酵素の発見と展開2014
Author(s)
一二三恵美
Organizer
第24回バイオ・高分子シンポジウム
Place of Presentation
東京工業大学大岡山キャンパス(東京都・目黒区)
Year and Date
2014-07-23 – 2014-07-24
Invited
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