2014 Fiscal Year Annual Research Report
レーザー過渡力学解析による細胞・組織内の応力テンソルの解明
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24360027
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
細川 陽一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (20448088)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フェムト秒レーザー / 原子間力顕微鏡 / 生体計測 / 衝撃波 / 力学作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにAFM探針により検出することに成功したゼブラフィッシュの発生初期胚とシロイヌナズナの根のフェムト秒レーザー衝撃力により誘導される振動波形の帰属を明らかにするために、本年度はこれらの生体試料に似たモデル試料を用いて実験を行い、シミュレーションによりその波形を解析した。 モデル試料として、アルギン酸ナトリウムを水に滴下することによって得られる球状ゲルを作製した。この球状ゲルのサイズは100μmから1mm程度となり、ゼブラフィッシュの発生初期胚の直径やシロイヌナズナの根の太さに相当する。この球状ゲルにAFM探針を接触させ、その側面にフェムト秒レーザー衝撃力を作用させた結果、この球状ゲルにおいてもゼブラフィッシュの発生初期胚やシロイヌナズナの根と同様の特徴を示す振動波形がみられた。振動波形は、衝撃力の作用後の数10μ秒に細かな振動がみられ、その後に大きな振幅が観測される。この大きな振幅が現れる時間は、球状ゲルの直径とともに遅くなった。 有限要素法による物理シミュレーションにより、レーザー誘起衝撃力により誘導された球状ゲルの振動波形を再現することを試みた。球状ゲルのせん断弾性率と体積弾性率を調整することにより、実験で観測された同等の振動波形を再現することができた。つまり、ゼブラフィッシュの発生初期胚で観測されていた波形は、胚を包む膜組織である可能性が高い。またこれまでシロイヌナズナの根において振動波形に再現性がでない問題があったが、これはシロイヌナズナの根の組織表面の乾燥状態が、試料の保存状態により大きく左右されることに由来する可能性が示された。微細生体試料を本実験により評価する場合、表面の状態を考慮し、試料を固定する必要がある。さらに生体試料には球状ゲルにはみられない高周波の振動がみられた。これは組織を構成する細胞由来の振動である可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の交付申請書に記載したとおり、本手法により得られる振動波形には、測定ごと、試料ごとのバラつきがあり、正確な解析を実現するためには、より再現性の高いデータを得て、その振動波形の帰属を明瞭にする必要があった。そのために本年は、物性が単純であるモデル試料(球状のアルギン酸ナトリウムゲル)を用いて実験を行い、この計測手法の再現性を確認するとともに、得られた振動波形の帰属についての検討を進めた。有限要素法による物理シミュレーションにより、得られた振動波形の再現に成功し、実験で得られた振動波形が試料表面の伝搬波であることを明らかにすることができた。この結果は、当初計画で想定されていたものではない発見である。この結果は、これまでの実験で得られてきた生物試料(ゼブラフィッシュの発生初期胚やシロイヌナズナの根)の振動波形の測定ごと、試料ごとのバラつきを合理的に説明できるものであった。これらの結果を基に、モデル試料にはない生体試料の複雑性を説明し、その力学特性を明らかにする足がかりを得ることができた。 また前年度の交付申請書に記載した振動波形のレーザー照射位置についても検討を進めており、照射位置に依存した波形が得られることを確認している。しかし、上記に記載したとおり、この計測で得られる振動波形は試料を直進する単純な伝搬波ではなく、試料表面を伝搬する波であり、その位置依存性の解釈は当初計画以上に複雑であることが判明した。ゆえに、当初予定で想定していたトモグラフィー解析の方法を見直す必然性が生じ、当初計画との違いがでてきている。しかしながら、本年の成果を通じて本計測手法を用いて微細な生体試料の新しい物性を知る手がかりをつかんでおり、来年度はその検討を合わせて進め、本手法の新規性と優位性を明瞭にしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、AFMで検出された振動の帰属をより明瞭にし、その振動から生体試料内の力学情報を推定する手法の確立を目指す。細胞と同等の構造を持つ細胞組織を模した膜状のモデル試料を準備し、生体試料との比較検討を進める。上記で述べたとおり、アルギン酸ナトリウムゲル微小球にはみられない、生体試料にみられる特有の高周波成分は、細胞の構造に由来する可能性があり、本実験を進めることにより、本手法により生体試料全体とそこに存在する細胞の力学特性を同時に評価できる可能性について調べる。また、この膜状のモデル試料をフェムト秒レーザーにより加工することにより、振動波形の形状依存性についても調べることができると考えている。加えてレーザーの照射位置依存性について調べ、これまでに培ってきた有限要素法による物理シミュレーションによる解析やさらにはトモグラフィー解析についても検討をすすめ、生体試料の応力テンソルの空間分布についての検討を進める。 さらに、これまでに用いてきた動植物の微小生体試料を、遺伝子操作や薬剤処理により力学物性を改変し、その力学特性を評価する。動物細胞試料であるゼブラフィッシュの発生初期胚については、その細胞構造を支えているアクチンフィラメントの重合を少し阻害することにより、その力学特性を改変できる。植物細胞試料であるシロイヌナズナの根については、細胞壁を酵素処理により改質することにより、力学特性を改変できる。これまでの結果で、AFM探針をこれらの生体試料に単純に押し付けて得られるフォースカーブでは検出できない力学特性が本手法により評価できる可能性が示されており、この解析を進めることにより、本手法の優位性を明確にできると考えている。これらの結果と解析結果を検証し、本課題で提案した手法の新規性・優位性について総括する。
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Causes of Carryover |
以下の2点の理由で次年度使用額が生じた ①生物実験のための試料購入を予定していたが、共同研究者からの提供で足りたため、購入費が少なくて済んだ。 ②技術補佐員が10月末で急に退職し、新しい人員を確保できなかったため、給与の支払いが無くなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記①が前年度に必要なかった分今年度必要になると想定され、前年度未使用額をそのために使用する。 また、研究室引っ越しに伴い、フェムト秒レーザーの点検、修理が生じる可能性が高いため、光学部品の補填や整備に使用する。
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Research Products
(15 results)