2013 Fiscal Year Annual Research Report
量子性を考慮した水素流動現象解析のための分子動力学シミュレータの構築
Project/Area Number |
24360065
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
徳増 崇 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (10312662)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪井 伸幸 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40342620)
津田 伸一 信州大学, 工学部, 講師 (00466244)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 液体水素 / 量子効果 / 分子動力学法 / 状態線図 |
Research Abstract |
平成25年度は、古典分子動力学(Molecular Dynamics: MD)法と経路積分セントロイド分子動力学法(Centroid Molecular Dynamics: CMD)法を用いて低温水素の熱・輸送物性を計算し,実験値との比較を行う事で,低温水素の熱・輸送物性に対する量子効果の影響を調べた.計算は臨界点を含む広範囲の温度ー圧力により行い、二相化したデータを除いて状態線図を作成し、その状態線図から飽和線を定義した。その結果, CMD法より得られた飽和線は,実験値と良く一致するが,古典MD法は実験値と差異を生じる事が明らかとなった.これより,臨界点で無次元化を行ったEOSに対する量子効果の影響は大きいと言えることが確認された.また,それぞれの圧力の表式を比較したところ,量子効果を考慮した場合,ビリアル圧力が古典の場合よりも大きくなる事が明らかとなった.これは,force matching法より得られたポテンシャルの比較より,量子効果を考慮する事で,水素分子間の分子径が大きく見積もられ、その結果、重心位置は同じでも、水素分子間の相互作用力は増大するためであることが確認された。 さらに,量子効果により分子間相互作用が小さくなる事で,拡散性も向上する事が確認された.これより,水素分子の量子効果がその熱流動特性に与える影響は大きく,古典的手法により水素の熱流動特性を再現する事は難しいと言えるため,水素の熱流動解析には,量子効果を考慮した手法を用いる必要があることが確認された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度以降の目標として申請書に記載もののうち、平成25年度は(1)量子性を考慮した液体水素の分子動力学シミュレータの改良, (2)水素のマクロな静的熱物性に対する量子効果の影響の解析を行った。具体的には、(1)については、まず構築されたシミュレータを用いて、水素の温度-密度状態や内部エネルギーの計算を行い、過去に報告されている経路積分CMD法での計算結果や実験結果と比較することでこのシミュレータの妥当性の検証を行った。また、水素の比熱を計算し、回転・振動準位の量子化を考慮していない経路積分CMDの結果や実験値と比較することにより、手法の妥当性についても検証を行った。その結果、実験値との良好な一致が見られ、シミュレータを完成させる事ができたと考えている。また、(2)については、この完成させたシミュレータを用いて、水素のマクロな静的熱物性の計算を行い、古典MD法を用いてシミュレートされた結果と比較することにより水素の量子性がマクロな物性に与える影響について解析を行った。静的熱物性については、様々な温度ー密度条件における系の圧力および内部エネルギーを計算し、Kataokaの方法を用いて状態線図(Equation of State: EOS)を作成した。また各温度における系の全エネルギーから水素の比熱を求め、古典MDとの結果との比較により、量子効果の影響を明らかにした。その結果、量子効果を考慮することにより気液共存線が実験値とよく一致することが確認され、液体水素の量子性が静的物性に与える影響を確認することができた。これらの結果から、平成25年度は概ね順調に研究が進んでいると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究課題としては、まず水素のマクロな動的熱物性に対する量子効果の影響の解析を行う必要がある。具体的には、静的熱物性と同様に、水素の動的熱物性についても計算を行い、水素の量子性がその熱物性に及ぼす影響を解析する。動的熱物性としては粘性係数、熱伝導率について解析を行い、実験結果と比較してその妥当性を検証するとともに、古典MD法による結果と比較してその量子効果の影響を明らかにする。二原子分子液体が運動量やエネルギーを輸送するメカニズムには分子移動による機構と分子衝突による機構が存在するが、液体水素の運動量・エネルギー輸送特性ではどちらの機構が卓越しており、またどの機構に量子効果の影響が顕著に現れるかを定量的に明らかにする。 この知見が得られた後、計算を具体的なヘテロな系に拡張して解析を行う。ヘテロな系としては(1) 気液界面が存在する系での水素の運動量・エネルギー輸送特性, (2)固液界面が存在する系での水素の運動量・エネルギー輸送特性, (3)金属表面における水素解離確率を考えている。まず(1)については計算領域内に気液界面を有する(液膜状の)液体水素を作成し、両端の温度や速度を制御することによりこの気液界面を有する液体水素の運動量・エネルギー輸送特性を非平衡分子動力学法により解析する。また、(2)については、固体表面間に液体水素が挟まれた系を作成し、両端の温度や速度を制御することにより固液界面を有する液体水素の運動量・エネルギー輸送特性を解析する。 (3)については、既に構築された金属表面-水素分子間ポテンシャルを用いて、Wave Packet法により振動準位・零点振動・トンネル効果などの量子性を考慮した分子衝突計算を行い、水素の量子性がその解離確率に与える影響を定量的に明らかにすることを考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度中に、本申請課題のうち、水素のマクロな動的熱物性に対する量子効果の影響の解析を行う予定であった。具体的には、静的熱物性と同様に、水素の動的熱物性についても計算を行い、水素の量子性がその熱物性に及ぼす影響を解析する。動的熱物性としては粘性係数、熱伝導率について解析を行い、実験結果と比較してその妥当性を検証するとともに、古典MD法による結果と比較してその量子効果の影響を明らかにする。二原子分子液体が運動量やエネルギーを輸送するメカニズムには分子移動による機構と分子衝突による機構が存在するが、液体水素の運動量・エネルギー輸送特性ではどちらの機構が卓越しており、またどの機構に量子効果の影響が顕著に現れるかを定量的に明らかにする。しかしながら研究がそこまで進まなかったために、そのための計算機の購入や海外調査費などを平成26年度に使用することとした。 使用計画としては、まずワークステーションを購入し、演算能力の増強を図る。またこの研究を行うために必要な調査を海外で行うための費用に充てる。また、すでに計算プログラムが完成しているので、このプログラムを用いて大規模な計算を進めるための研究補助員の雇用を行い、得られた研究成果を発表するための学会発表費や論文校閲費などに宛てる予定である。
|