2013 Fiscal Year Annual Research Report
スピン波の位相情報を利用した記憶・論理一体型情報デバイスの研究
Project/Area Number |
24360137
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松山 公秀 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (80165919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 輝光 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 助教 (20423387)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | スピン波 / 磁壁 / スピンエレクトロニクス / スピンダイナミクス / マイクロマグネティクス / 垂直磁気異方性 / 並列論理演算 / 情報記録 |
Research Abstract |
強磁性細線中に記録された磁壁配列パターン間の高速・並列論理演算動作をスピン波により行なう革新的な情報デバイスの実現に向け,本年度は以下のような研究成果を得た. 先ず,磁壁の高密度集積性に優れた種々の垂直磁化薄膜材料を対象として材料系の探索を行なった.L10構造のMnxGa1-x(x=0.5-0.6)薄膜を比較的低温度(400℃以下)で作製して良好な垂直磁気異方性を示すことを示し,ナノ構造のスピン波伝播媒体として優れた適性を有することを明らかにした. 垂直磁化膜を用いた動作検証実験に先立ち,パーマロイ細線を媒体とするスピン波伝送路,スピン波励起源,及び,スピン波検出器を備えた素子を微細加工技術により作製し,ベクトルネットワークアナライザを用いたスピン波干渉評価実験を行った.スピン波伝送路上に形成した二つの励起源からの合成スピン波強度が,各スピン波の位相差により変調されることが実験的に確認された.また,スピン波が磁壁を通過する際に生じる位相シフトを示唆する実験データが得られた.この実験結果はコンピュータシミュレーション結果とも定性的な一致を示している.さらに,計算機シミュレーションにより,垂直磁化細線中の磁壁とスピン波との相互作用ダイナミクスの詳細を解析するとともに,スピン流を用いた磁壁導入によるデータコーディングおよびスピン波干渉による論理演算の連続動作を模擬した結果,スピントランスファートルクと電流磁界トルクを併用して磁壁のピニングおよびデピニングを適切に制御することで垂直磁化細線が,スピン波位相情報回路における排他的論理和の演算機能を付与可能な素子として利用できることを明らかにした.また,スピン波検出器と誘導結合した複数本のスピン波伝送路を配列することにより,データ列間のハミング距離計算等の並列論理動作が可能であることを計算機シミュレーションにより示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実現に必須である低ダンピング定数を有するL10構造のMnGa垂直磁化薄膜の成膜に成功するとともに,磁壁によるスピン波位相シフトを情報とする論理演算機能の基本動作を試作素子において実証するなど,研究目的の実現の可能性が実験的に示された.また,計算機シミュレーションにより,素子構造や磁壁位置の制御に関する適性条件が明確化されており,諸特性の理論的予測をふまえながら,より実素子に近い形状の素子設計が可能となっている.
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Strategy for Future Research Activity |
磁壁によるスピン波位相シフトおよび,これを動作原理とする磁壁配列情報の読み出しを実験的に示す.また,回路的な位相シフトとの比較対応を通して,磁壁による位相シフト量の精密評価を行う.磁壁による情報コーディング実験に際しては,異常ホール効果による電気的測定や,マイクロカー効果による磁気光学的手法を駆使して,磁壁位置の精密観測技術を確立する.さらに磁性細線と機能動作用のマイクロストリップラインをマトリクス状に配置した素子を作製し,磁壁配置間の一致度をスピン波干渉により誘導起電力の強弱として読みだす並列演算機能の検証を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には,当該課題研究の中心的な材料系であるスピン波媒体の探索に際して,計算機シミュレーション理論的な予備検討を十分に行った結果,効率的な材料開発に成功し,その結果物品費の支出が当初計画より低額に抑えられたことが次年度使用額の生じた主たる理由である. 次年度には,当該課題研究の目標である,スピン波を利用した記憶・論理一体型情報デバイスの実証実験を推進の予定であるが,その実現には多数回に渡る素子の試作と評価実験を行うことが想定され,そのために必要なプロセス用化学薬品類及び電子回路部品の購入に充当する予定である.
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