2013 Fiscal Year Annual Research Report
貧栄養・攪乱性土壌での窒素固定の特性把握と植物群落への影響評価及び管理指針の作成
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24360198
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 河道内砂州 / 窒素固定 / クズ / 樹林化 / 土壌富栄養化 / 河道内植生 / 河川管理 |
Research Abstract |
本年度は、当初の計画調書に基づいて、河川や湖岸で土壌を富栄養にしていく過程での窒素固定細菌の果たす役割、また、それによって高まった窒素量濃度が植生のバイオマスに果たす役割の定量化について、以下のような研究を行い明らかにした。 1)荒川で観測を行い、河川に多い、ニセアカシア、ヤナギ、アキグミの樹木について、それぞれの樹種によって、樹齢との関係でアロメトリー式に基づいた組織別バイオマス量を求める関係を導出した。毎年更新される葉の量については、葉の量と樹冠の面積から、日射の射影率を求める式を導出した。2)樹種ごとに、組織別の窒素含有量を求めた。3)多摩川、荒川、黒部川、利根川等で観測を行い、植物量、土壌粒径、樹木による陰影の程度、土壌中栄養塩濃度等のデータを取得、草本植物量を、イネ科の大型草本類とその他の小型の草本に分けて、上記の樹木の存在の有無による日射量、冠水頻度、土壌粒径、土壌中の窒素量の関数として求めた。さらに、ここで得られた式を他の観測と比較し、導出した草本類バイオマスの評価関数の信頼性をチェックした。4)各地で行われている観測値等を用いながら、窒素収支にかかわるその他の過程である、窒素大気負荷、硝化・脱窒素過程、冠水による窒素供給等について定量化を行った。5)多摩川で土壌と植物のサンプリングを行い、窒素濃度、窒素安定同位体比等を分析した。その結果を用いて、窒素固定に対する影響を把握し、植物の固定窒素寄与率(生長過程において取り込んだ窒素量の中で、大気から固定して取り込んだ窒素の割合)を求めた。ただし、冠水頻度の違いが窒素固定能やそれに伴う富栄養化に与える影響の評価は適当な冠水がなく見送った。これを基に、本来貧栄養な土壌を富栄養にしていく中で、植物バイオマスが増加していく過程で窒素固定細菌の果たす役割を、特に洪水頻度との関連で明確にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、最初の年の平成24年土に室内実験で窒素固定の特性を把握、その後、平成25年度に野外での基本特性を把握する予定であった。しかし、当初、試行錯誤を予定していた安定同位体比を用いた測定が滞りなく行えたことから、平成24年度中に多摩川や三春ダムの野外観測が可能になり、現場データを用いて植物体内の窒素における窒素固定の寄与率を求めることができた。そのため、当初の計画を前倒しで行うことが可能になった。平成24年度に現地で求めた窒素固定寄与率を基にして、平成25年度には、場所的な分布の観測を詳細に行った。このことで、長期間の標高別の窒素固定の影響の評価が、ある程度の範囲で可能になった。ただし、平成25年度に予定していた、洪水かく乱の果たす影響の把握については、平成25年度に対象河川で適当な洪水がなく、河岸の冠水もなかったことから見送った。しかし、洪水の有無に関わらず進めることができる項目である、富栄養化によって増加する植物バイオマス量の評価に関して十分な観測データを得ることができた。また、この結果を用いて、近隣の樹木による日射の遮蔽の影響や土壌粒径、土壌の栄養塩濃度の関数として、草本バイオマス量の評価することが可能になった。また、これらの草本に関する評価結果の導出と並行して、樹木についても、組織別バイオマス量の評価式の導出、組織別の栄養塩(窒素)量の把握、落葉及びその後の分解による栄養塩の循環量の評価等を行った。これらは、いずれも平成26年度に行うことを想定していた項目である。以上のことから、実際の河川に適用していく際に必要となる個々の要素の評価が概略可能になった。こうしたことから、全体として、当初の計画以上に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度には、当初から平成26年度の計画に存在し、かつ、平成25年度に適当な冠水がなく行えなかった項目と新しく設定した項目について、以下のような研究を行う。 まず、当初の計画に基づいて、平成25年度に導出した土壌の富栄養化過程の評価式、植物以外の窒素循環に関連する量の評価式に樹木の生長と組織別バイオマス、組織別栄養塩濃度の評価式を組み合わせることによる、河岸や湖岸の植物バイオマス評価式に、洪水等による樹木の侵入及び自己間引きを加え、植物動態評価モデルの開発を完成させる。次に、上記モデルの妥当性の検討し、実際の河川へ適用する。また、これらの結果を踏まえ、河川管理への提言をまとめる。一方で、平成25年度には、河岸の標高に応じて洪水かく乱が窒素固定に与える影響及び、それに伴う土壌の富栄養化に与える影響の評価を行う予定であった。ところが、平成25年度には適当な洪水がなく、洪水かく乱の影響の把握は平成26年度に行わなければならなくなった。また、この結果に基づいた、洪水かく乱による土壌の栄養塩濃度の変化に伴う植物種の分布への影響の把握のための観測、解析も平成26年度に行うことにした。さらに、研究の進展が当初の計画より進んでいることから、実際の河川等への適用までを考えていた研究の範囲を、当初必ずしも十分想定されていなかった、窒素固定に依存した貧栄養土壌の富栄養化過程の一般的な形態、また、富栄養化に伴う、草本類の形態別の侵入量や草本類バイオマスのより詳細な変動の把握等、より細部にわたる現象の評価や一般化にまで、研究の幅を広げることにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には、洪水の影響による洪水かく乱による土壌の流出、栄養塩分布の変化に伴う植生の変化に関する調査、研究を計画していた。しかしながら、平成25年度には適当な洪水が生じなかったため、この研究ができず、観測及び採取したサンプルの分析用に用意していた43万円の予算が余った。ところが、本項目は、河川というかく乱が頻繁に生ずる場での富栄養化進行の過程、及び、それに伴う植生遷移を考える上で極めて重要なものである。対象とする河川では2年続いてこうした洪水がないことは希なことから、平成25年度に行うことができなかった観測を平成26年度に再度計画することにした。そのため予算の執行を翌年度に持ち越すことにした。 平成26年度は、洪水による植生分布に対する影響評価を計画しているが、同時に、洪水がない場合も考え、GIS上で過去の植生分布のデータ、航空写真のデータ、水文データを合わせて解析を行い、実際の観測で得られるデータに代わるものを得ることも考えている。なお、平成26年度に新しく加えた、より詳細な植生分布の把握においても、GIS上での分析は必要であり、GIS上での作業を同時に進めることが無駄になることはない。このため、当該助成金は平成26年度の研究費と合わせて以下に使用する。1)多摩川・利根川等での野外観測に必要な現場作業用消耗品・サンプル収納消耗品などの調査用資材、2)採取したサンプルを分析するための、安定同位体分析用試薬類、原子吸光計用試薬類、合わせて分析に伴うガラス器具・ガス等、3)分析機器類の安定した状態を維持するため修理費用、4)GIS分析作業に当たる学生への謝金 等である。
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