2012 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ炭素スピントロニクスのためのフラーレン-遷移金属複合系スピン注入源の研究
Project/Area Number |
24360266
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
境 誠司 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, グループリーダー (10354929)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 吉弘 日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (80455287)
圓谷 志郎 日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (40549664)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フラーレン / ナノ炭素 / スピントロニクス / 分子スピントロニクス / スピン注入 / 界面 / グラニュラー薄膜 |
Research Abstract |
フラーレン/磁性金属界面のスピン偏極状態の解明を目標に、フラーレン-鉄系薄膜の作製とスピン依存伝導特性の評価を行った。超高真空中で組成を制御してフラーレン(C_<60>)と鉄を共蒸着することでフラーレンを主成分とする薄膜中に鉄ナノ結晶が分散したグラニュラー薄膜を得ることができ、同薄膜が鉄ナノ結晶間のトンネル伝導による伝導性を示すことを確認した。得られたフラーレン-鉄グラニュラー薄膜のスピン依存伝導特性について、低温で磁気抵抗率(磁場による電気抵抗変化/電気抵抗の最大値)が50%以上に達する巨大トンネル磁気抵抗効果が生じることを明らかにした。さらに、試料の電流-電圧特性から、同薄膜内で複数のナノ結晶がトンネル伝導の過程に関与する高次トネリングが生じていることが示唆された。磁気抵抗率の大きさに高次トンネリングの次数を考慮することでトンネル伝導に関与する伝導電子のスピン偏極率(フラーレン/鉄界面のスピン偏極率に相当。以下、界面スピン偏極率)を求めることができた。得られた界面スピン偏極率(最大70%)は、鉄の結晶内のスピン偏極率(30-40%)より高く、フラーレン/鉄界面でもフラーレン/コバルト界面と同様に高スピン偏極状態が存在することが明らかになった。本結果はフラーレン/磁性金属界面を利用してナノ炭素スピン素子中のスピンの伝導を効率良く制御できることを意味する。一方、界面スピン偏極率の温度依存性について、フラーレン-コバルト系と類似の強い温度依存性が観測され、温度と共にスピン偏極率が大きく低下することが明るみになった。同原因として、フラーレン薄膜中にフラーレンと結合した状態で存在する鉄原子が温度と共にスピンの散乱を助長することが考えられ、原因究明と温度に対するロバスト性の改善は25年度以降の課題として取り組む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画の通り、フラーレン-鉄系グラニュラー薄膜についてトンネル磁気抵抗効果の観測と界面スピン偏極率の評価に成功した。得られた成果の一部は年度内に論文発表を行った。フラーレン/鉄界面の高スピン偏極状態の存在を明らかにできたことは、次年度以降の研究の進展にポジティブな成果である。当初計画に記した放射光X線磁気円二色性分光による電子・スピン状態の解析についても実験が進行中である。さらに、フラーレン/磁性金属界面の電子・スピン状態を選択的に検出できる深さ分解X線磁気円二色性分光装置の製作も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には、フラーレン-磁性金属系グラニュラー薄膜について界面スピン偏極率の磁性金属種に対する依存性や同温度依存性を追究することと併せて、フラーレン/磁性金属界面を有する積層構造をスピン注入電極に用いたスピンバルブ素子を作製し、スピン伝導の効率的制御の可能性についても検討を行う。放射光X線磁気円二色性分光についても、24年度に製作した深さ分解X線磁気円二色性分光装置を用いて実験を進める。
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