2013 Fiscal Year Annual Research Report
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24360375
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
藤井 敏弘 信州大学, 繊維学部, 教授 (50126702)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | セルフリサイクル / 安全・安心材料 / 廃棄生体組織 / 再生・再利用 / 刺激応答材料 / 薬物送達基材 / 毛髪代替染色材料 / 水評価 |
Research Abstract |
「廃棄生体組織を利用したセルフリサイクル技術の開発」を課題として研究を進めている。生体組織としてヒト毛髪を採用しており、そこに含まれるケラチンは直径が10 nmの中間径フィラメントの主成分である。切断後、数年間室温下で保存してある毛髪試料においても重合-脱重合能を持つ性質を利用して、「ケラチン-フィルム/シート」および「ケラチンゲル」の作製方法を確立してきている。これらを基盤として、化粧品から医用材料への応用を目指したモノ作りと評価を実施してきている。 平成25年度はケラチン-フィルム/シートに3つの大きな進展があった。①ケラチン単独から構成されたフィルムの新規な作製方法の開発。②既存のケラチン-フィルムがシャンプーで使用されている界面活性剤に耐性をもち、シャンプー類の評価に利用できる新たな可能性が示されたこと。③ 従来のケラチンフィルムは白髪と同様にヘアカラー剤により染色されて着色すること。さらに、着色したケラチン-フィルム/シートを使い、ヘアカラーした髪から色落ちを防げる“髪に優しい水”の提案。①は、新規のフィルム/シートとなるため、複合型ケラチン-フィルム/シートの開発とともに進める。②と③は社会的ニーズが高いため、この路線を進める。 ケラチンゲルはヒドロゲルへの変換条件が微妙で、ハンドリングは難しいことが平成25年度に判明した。一方で、ゲル-ゾル変換を繰り返すと透明性に優れたブリリアントなゲルに変化していくことがわかったので、新たに皮膚を対象とした応用を目指したモノ作りをする。これに加えて、環境応答型の薬物送達システムの基材としての応用に向けたデータの蓄積を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
毛髪タンパク質はフィラメント自体を構成するケラチン以外に、膠物質として低分子量のケラチン結合タンパク質(KAPs)が約20%含まれている。KAPsを短時間で分離できる新規方法を確立し、これを応用してKAPsを含まないケラチン単独のフィルム形成にも成功している。これ以外に、本年度は従来のケラチン-フィルム/シートにおいては新たな活用先を見出すことができた。はじめに、ケラチン-フィルム/シートが通常の温度下においてはある種の界面活性剤の処理に対してその質量や形態が変化しないことと摩擦感テスターにより平均摩擦係数などが測定できることが判明した。このためシャンプー類を評価できる“代替毛髪デバイス”としての可能性を示し学会で発表した。次に、ケラチンは毛髪コルテックス部位の主な構成成分であることから、ヘアカラー剤画結合して発色するターゲットになっている。ヘアカラー剤への着色性からキューティクルを含まない毛髪としてケラチン-フィルム/シートは新規ヘアカラー剤を開発する“代替毛髪デバイス”としての可能性も示すことができた。さらに、着色したケラチンフィルム/シートからの退色性に着眼して、“髪に優しい水”を考案している。 一方、ケラチンゲルの方はDDS用の基材としての加工は難しいが、化学修飾をせずにゲル-ゾルを繰り返すと輝きを持つヒドロゲルが形成されることがわかった。方法としてはまだ確立していないが、簡便な手法となりえるため化粧品および医用材料への適応性は高い。 平成24年度の成果と合わせて、平成25年度には5件の雑誌論文と9件の学会発表などで研究成果の発信をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を一層進展させるため平成24年度と平成25度の研究成果に基づき計画して進める。特に平成25年度において、ケラチンフィルム/シートにおいて新たな発見と活用先の出口が見つかったので、これらを追加して研究を進める。基本的には、「新規および複合型ケラチン-フィルム/シートの開発、評価試験、応用」と「ケラチンゲル作製技術の確立と評価試験」の2本立てとした研究体制とする。このため、本年度も研究補助員を2名とした態勢を継続する。 1.ケラチン-フィルム/シートの開発と評価試験(代替皮膚とシャンプー類および水の評価デバイスへの応用):従来のケラチンフィルム/シートがシャンプー類の機能/官能評価と水の新規カテゴリーへのデバイスとしての利用が確認されてきている。両者とも社会的な意味合いが高いため、これらを確立するための研究を進める。次に、ケラチンフィルム/シートの技術を基にケラチン単独とKAPs含量が高いフィルム/シートの形成ができる手法を開発できた。これらの方法で作製したフィルム/シートの諸性質を調べる。これに加え、絹フィブロイン、コラーゲンを使用した複合化型を作り、皮膚代替フィルム/シートとしての評価を行う。 2.ケラチンゲルの作製と評価試験:安全なゲルを作製する技術の確立を第1とし、還元-酸化に応答した材料とすることを第2目標とする。これらに合わせて、SH/SSの状態、高分子の保持-徐放する能力、物理的な諸性質を調べる。次に、新規ブリリアントゲルの諸性質を調べ、美容ジェルやクリームに活用を試みる。 成果は、本年度開催される国際バイオテクノロジー展と化粧品開発展への出展と発表、高分子学会、繊維学会、生物高分子学会で発表を行う。必要に応じてプレス発表も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画で見込んでいたよりも安価に研究が完了したため、次年度への繰り越しが生じた。一番の理由は、2年目(平成25年度)に予定していた備品(ライトキャプチャー/238.5 万円)の購入を取り止めたためである。二番目の理由は、予定していた2名の研究補助員が1名体制で長期間進行したためであるが、現在は2名としている。三番目の理由としては、1名体制が長かったため、その物品費が抑えられたことにある。 昨年度の後半からの2名体制を本年度も継続して進めるため、人件費・謝金への使用を考えている。このために、人件費・謝金の確保を一番とする必要がある。これに伴う物品費を二番の支出と考えている。研究成果を発信するための学会や展示会への旅費を三番目の支出として考えている。
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Research Products
(15 results)