2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24370012
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
天野 雅男 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (50270905)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 種間関係 / ハクジラ類 / 生息地利用 / 採餌戦略 |
Research Abstract |
本研究では、根室海峡に来遊する大深度潜水ハクジラ類である、マッコウクジラおよびツチクジラを対象にその生息地利用を3次元的に調査することで、両種がニッチを分割しているのかを明らかにし、大深度潜水鯨類のニッチ分化仮説を検証することを目的としている。平成25年度は7月に根室海峡においてマッコウクジラを主対象にデータロガーによる潜水行動調査を、8月から9月にかけて、マッコウクジラ・ツチクジラを対象として、セオドライトを利用した陸上目視観測調査を行った。データロガー調査ではのべ6頭のマッコウクジラにデータロガーを装着した。このうち4頭には、深度、速度、3軸加速度、3軸地磁気、GPS搭載データロガーを、2頭には深度、3軸加速度、3軸地磁気、音響測定データロガーを装着した。詳細な解析は進行中であるが、データロガーのデータから、マッコウクジラは昼は400mほどと浅く、夜は800mほどと深い深度への潜水を行っていること、昼夜で探査中の体の動きが異なっていること、またGPSと陸上目視のデータから一日で海峡内を南北に2往復するという、きわめて定型的な採餌行動のパターンを毎日繰り返していることが明らかとなってきた。つまりマッコウクジラは昼夜で異なる採餌層を、異なる採餌戦略を使って利用していることが明らかとなりつつある。一方、ツチクジラについては、このような移動の日周性は見られず、両種はかなり異なる採餌戦略をとっているものと考えられる。また、個体識別調査では34頭の識別個体のデータが得られており、これまでのデータと合わせて予備的な社会構造解析を行ったところ、これまでオスのマッコウクジラでは報告のない、長期的な個体間関係が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度のデータロガー調査では、マッコウクジラ6頭というこれまでの実績をはるかに超える頭数へのデータロガー装着を成功させるとともに、新しく導入した音響データロガーの装着にも成功した。これまでの調査による手法の改良の成果の現れであり、非常に大きな成果と考えている。また底刺し網へ設置している定点設置型の音響ロガーのデータ、両種の個体識別データも順調に得られ、マッコウクジラについては社会構造解析が可能なデータ数となっている。一方、ツチクジラへのデータロガー装着は発見数の少なさと接近の難しさから、成功に至っていない。また、陸上目視調査については、25年度は視界不良の日が多く、当初の想定よりも、調査実施日数がかなり少なくなった。以上より、おおむね順調に推移していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、今年度も夏季に根室海峡において過去2年と同様の調査を行う。すでに調査方法についてはほぼ確立されているので、それに従って調査を行っていく。データロガー調査を7月に10日間ほど実施し、さらにマッコウクジラの潜水行動データを収集する。ツチクジラについては、発見と接近に困難が伴うが、機会を見つけて装着方法の確立に努める。漁業者の協力を得て、刺し網への定点設置型音響データロガーの設置を行うとともに、動画データロガーの設置を検討する。8月から9月にかけてはウオッチング船に同乗しての個体識別調査および、陸上目視調査を継続して行う。調査終了後はこれまでの調査で得られたデータの解析を進める。マッコウクジラの潜水データについては、音響と行動の双方のデータから、昼夜での採餌戦略の違いの詳細を明らかにしていくとともに、国立科学博物館が行っている中深層性頭足類の種組成・分布調査の結果と合わせて検討することで、昼夜の違いの理由を検討することが可能になると期待される。乗船調査、陸上調査から得られたマッコウクジラ、ツチクジラ両種の水平分布データをまとめ、両者の生息地利用パターンの差異を明確にする。さらに、マッコウクジラの個体識別に基づく社会構造の解析をまとめ、長期的な関係にある個体のペアを明らかにするとともに、これらの間に採餌における共同の可能性があるかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、フィールド調査において予定よりもマッコウクジラのデータロガー装着が順調に推移したため、傭船料に若干の余裕が生じた。また、調査およびデータ管理のための人件費にも余裕が生じたため、助成金のこの部分を翌年に繰り越した。 平成26年も25年同様の調査を行うために、繰り越した基金を含め、調査旅費、傭船料を昨年度と同様に確保する。傭船料は、クジラの出現状況、ロガーの装着状況により、調査日数が変動するために、余裕を持って使用計画を立案してある。また、現地調査、データ解析に必要な消耗品のために物品費を計上する。
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Research Products
(3 results)