2013 Fiscal Year Annual Research Report
成魚の雌雄生殖腺の性的可塑性の分子機構に関する研究
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24370028
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
長濱 嘉孝 愛媛大学, 南予水産研究センター, 特定教員(教授) (50113428)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 雌雄異体魚 / メダカ / 成熟魚 / 性的可塑性 / 生殖幹細胞 / エストロゲン / 芳香化酵素阻害剤 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
これまで、受精時に決定した脊椎動物の性は生涯を通じて決して変わらないと考えられてきた(雌雄異体)。ところが最近、研究代表者らは雌成熟魚(メダカ、テラピア)のエストロゲン量を低下させると、成熟雌は成熟雄へと性転換することを見出した。そこで本研究では、成魚の生殖腺(卵巣と精巣)に保持されていると考えられる性的可塑性の分子機構を主として形態的研究手法を駆使して、細胞・遺伝子レベルで初めて明らかにすることを目指す。本研究の第2年次にあたる平成25年度は、昨年度は成功しなかった、エストロゲン処理による雄から雌への性転換誘起を重点的に試みた。生後3か月と5か月のXYメダカ雄(QurtE, XY)をエストラジオール-17b(E2)(1 ug/l)を含む飼育水で3日~8週間処理し、その間における生殖腺の形態変化を観察した。その結果、生後3か月のXY魚で処理開始3週間後に精巣卵、7週間後に卵巣腔、8週間後に卵黄形成を開始した卵母細胞が観察された。さらに、8週間のE2処理の後にさらにE2無添加の飼育水で30日間飼育したところ、卵黄形成を完了した卵母細胞が多数観察され、排卵も観察された。また、これらの性転換XY雌魚を正常の成熟XY雄魚と交配したところ、正常の受精卵が得られた。E2処理開始後にGsdf遺伝子(精巣関連遺伝子)の発現が減少したが、Rspondin1遺伝子(卵巣関連遺伝子)の発現が上昇した。一方、生後5か月の成熟XY魚を用いた同様の実験では、E2処理開始5週間後に精巣卵が、8週間後に卵巣腔が出現したが、その後30日間E2無添加飼育水で飼育しても成熟卵は得られなかった。 本研究により、生後3か月の精子形成を行っている雄魚の生殖腺でも性的可塑性が保持されていることが示されたことで、メダカ成魚の雌雄生殖腺に保持されている性的可塑性を細胞・遺伝子レベルで明らかにするための実験系が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの本研究で、成熟雌魚(XX)のみならず、精子形成が進行しつつある雄魚(XY)にも性的可塑性(生殖腺、性行動)が保持されていることが明らかになったことは大きな進展であると考えられる。また、当初に考えたように、この性的可塑性の保持には生殖腺におけるエストロゲンの有無が重要な役割を果たしていることが確認された。このことに関連して、本研究では、成熟雌魚を芳香化酵素阻害剤(AI)で処理することにより誘起される雄への機能的性転換時における3種のエストロゲン受容体(ER)(a, b1, b2)遺伝子の発現変動を詳しく調べる予定であったが、この解析はまだ実施されていない。ただ、平成25年度の予備的解析から、AI処理開始直後から卵巣におけるERb2の発現が急激に減少することが示された。したがって、成熟雌から雄への性転換時にエストロゲン量とエストロゲン受容体量の減少が起こると考えられる。 さらに、本研究では、1)成魚の雌雄生殖腺に生殖幹細胞が存在すること、2)雌から雄への性転換時の生殖腺でRspondin1の発現量の減少とGsdf遺伝子の発現量の上昇がみられること、3)雄から雌への性転換時の生殖腺でGsdf遺伝子の減少とRspondin1遺伝子の上昇がみられること、等が示された。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの2年間の本研究により、エストロゲンと芳香化酵素阻害剤を用いることにより、メダカの雌雄成魚に性的可塑性(生殖腺と性行動)が保持されていることが明確に示された。したがって、雌雄異体魚のメダカ成魚に保持されていると考えられる性的可塑性の細胞・遺伝子メカニズムを解析するための実験系が整ったといえる。最終年度の平成26年度は、成魚における雌から雄(AI処理)、および、雄から雌(エストロゲン処理)、への機能的性転換のメカニズムを細胞・遺伝子レベルで詳しく解析する。特に、生殖幹細胞、セルトリ細胞におけるGsdf遺伝子とSox9a2遺伝子の発現変動、顆粒膜細胞におけるRspondin1遺伝子とFoxl2遺伝子の発現変動、に注目して研究を進める。また、平成25年度に見出された、生後3か月と5か月のXY雄魚にみられた性的可塑性の違いについても細胞・遺伝子レベルで解析する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究打合せのために自然科学研究機構・基礎生物学研究所に出張の予定であったが延期となった。 平成26年度の早い時期に、研究打合せのために自然科学研究機構・基礎生物学研究所に出張の予定である。
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Research Products
(6 results)