2012 Fiscal Year Annual Research Report
マルチスケール分析を用いた脳内環境変化による本能行動修飾の神経機構の解明
Project/Area Number |
24370031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神崎 亮平 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 神経行動 / 昆虫 / 脳 / 行動修飾 |
Research Abstract |
本研究では、カイコガのフェロモン源定位行動とその情報処理系を対象とし,セロトニンの分泌による脳内環境の変化がもたらす基本回路の特性変化を,マルチスケールな手法により機能的に分析することで,脳内環境が行動を修飾する神経機構を明らかにし,環境に適応的な行動発現の基本原理を解明することを目的とする. 本年度はまず脳内のセロトニン分泌細胞の入出力領域のマップの構築を目的として、セロトニン合成酵素の一つであるトリプトファン水酸化酵素遺伝子(BmTRH)のタンパク質翻訳領域の上流配列約3.7kbをプロモーターとしてGAL4を発現する遺伝子組換えカイコガ(BmTRH-GAL4)の作出を行った。BmTRH-GAL4系統をUAS-GFP系統と交配し、オス成虫の脳におけるGFP標識細胞の分布を解析した結果、脳のさまざまな領域でGFP標識細胞が観察された。GFP標識細胞とセロトニン免疫陽性細胞の分布と比較したところ、BmTRH-GAL4/UAS.GFP系統はセロトニン免疫陽性細胞の一部でGFPを発現することが示唆された。これは、キイロショウジョウバエ以外の昆虫種で、遺伝子組換えにより脳内の生体アミン分泌細胞で外来遺伝子の発現に成功した初めての例である。一方で、特にフェロモン情報処理に重要な領域である触角葉、キノコ体、側副葉と呼ばれる領域に分枝するセロトニン分泌細胞ではGFPの発現は確認できなかった。これらの結果から、本年度に作出した系統だけでは、セロトニン分泌細胞の網羅的なマップの構築は困難であることがわかった。そのため、次年度では本年度作出した系統を用いた入出力マップの構築、機能分析と並行して、プロモーター領域を変更したBmTRH-GAL4系統や、他のセロトニン合成酵素遺伝子のプロモーターを利用したGAL4系統を作出する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度セロトニン合成酵素の一つであるトリプトファン水酸化酵素遺伝子のプロモーター下でGFPを発現する組換えカイコガの作出に成功したものの、GFPの発現が既知のセロトニン分泌細胞を網羅していないことや、発現レベルが高くなく、電気生理学的な実験に供するのが困難であった。そのため再度遺伝子組換えカイコガの作出を行う必要が生じたため、やや計画に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度作出した遺伝子組換え系統を利用して、形態や機能の詳細な分析を進めるとともに、トリプトファン水酸化酵素遺伝子のプロモーター領域を改変した遺伝子組換えカイコガの作出や、セロトニン合成経路の他の酵素遺伝子のプロモーターを利用して、全セロトニン分泌細胞を網羅的に分析できる遺伝子組換えカイコガを作出することで研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は作出した組換えカイコガの特性から、細胞内染色による構造解析や生理実験を集中的に行う状況に至らなかった。 平成25年度は遺伝子組換えカイコガ作出のための遺伝子工学試薬や系統維持に係る餌代等の諸費用に加え、生理実験や細胞内染色に用いるガラス器具や薬品などの消耗品に主に研究費を使用する計画である。また遺伝子組換えカイコの飼育管理を行う実験補助員の人件費および国内外の学会での発表に係る旅費として使用する計画である。
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