2014 Fiscal Year Annual Research Report
微細藻類の未解明ハビタット~有光層下部海底の生物多様性解明
Project/Area Number |
24370034
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堀口 健雄 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20212201)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 有光層下部 / 鞭毛藻類 / 渦鞭毛藻類 / 底生性真核微生物 / 分類 / 分子系統解析 / 微細構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜熱帯のおよそ30~50m水深の海底白砂地帯は底生性微細藻類の未解明のハビタットであることから,本研究は1)この有光層下部の海底を主なターゲットとして分類学的,系統学的な研究を実施し種多様性の実態を解明し,2)各種の進化的位置を分子系統学的手法によって調査し,それらの起源を探ると共に,既存の分類体系の見直しをおこなうことを目的としている。H26年度は前年度に引き続き薩南諸島沖の水深30~60メートルの海底の砂サンプルおよび北海道を中心とする海岸の砂サンプルを研究対象とした。 薩南半島の海底サンプルからは新たに渦鞭毛藻(21株),プラシノ藻(4株),ラフィド藻(1株),所属不明(1株)の27種の培養株を確立した。個別の種に関する注目すべき成果として,Testudodiniumに類似した形態をもつHG345株(新属新種)は系統的には前者と近縁ではなく,単細胞生物における形態の収斂進化の例として興味深い。水深56mから単離したHeterocapsa HG352株は新種であり既知の底生性種とは系統的に異なっていた。このことから浮遊性種から底生性種への進化は属内で複数回生じたと結論した。北海道の海岸などから採集した2種は従属栄養性ながら盗葉緑体性渦鞭毛藻と近縁であり,一方は盗葉緑体獲得前の系統,もう一方は二次的に盗葉緑体を失った種であった。前者を新属新種Pellucidodinium psammophilum,後者を新種Nusuttodinium desymbiontumとして記載した。この他にAmphidiniumでも新種の存在を確認している。 砂地性と浮遊性渦鞭毛藻の光合成色素組成をHPLCによって網羅的に比較したところ砂地性種にのみ多様な未同定のカロテノイドが存在することをつきとめた。このことから砂地性という生活形態が色素合成系に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までの成果に加え,H26年度には,新たに27株の培養株を確立し,合計100株以上となった。ほとんどの培養株について,光学顕微鏡レベルの観察をおこない,また,多くの培養株について塩基配列データを取得済みである。興味深い種に関しては,透過型電子顕微鏡を用いた研究も実施している。その結果,新属・新種や新種もみつかり,Pellucidodinium psammophilumや Nusuttodinium desymbiontumはすでに論文として公表済みであり,他のTestudodinium,Testudodinium類似種(系統的には離れている),Heterocapsa,Amphidiniumなどに属する新分類群に関しては,学会発表として研究成果を発表済みで,現在,論文としての公表を準備している段階である。また,本プロジェクトで確立した培養株を含め,当研究室で保有している多くの培養株を用いたHPLCによる光合成色素組成の網羅的比較により,砂地性渦鞭毛藻類(底生生)にのみ,未同定のカロテノイドが存在することを明らかにした。このようなカロテノイドは同条件下で抽出しているにも関わらず浮遊性(プランクトン性)種では全く見つからず,色素の構造や機能は不明なものの,砂地性という生活形態が色素合成に何らかの影響を与えていることを強く示唆するものである。底生生渦鞭毛藻類の生態的な知見は極端に少なく,今回の結果が,底生生渦鞭毛藻の生き様を理解する上で重要なヒントになるのではないかと考えている。 このように多くの新分類群を含む有光層下部の微細藻類の藻類相は明らかになりつつあり,また,新しい細胞構造や光合成色素に関する生物学的な新知見も得られており,総合的に見て概ね研究計画通りに進行していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も昨年度と同様,薩南諸島沖の海底サンプルを入手予定であり,今までと同様に培養株の確立と各培養株に関する個別の分類学的研究を推進し,さらに有光層下部の藻類相理解の充実を目指す。また,海底種との比較の目的で浅瀬や海岸の微細藻類相に関する研究も実施する予定である。 今年度が最終年度ということもあり,今まで新奇と思われていたが種名が確定できなかった分類群については,種名を確定するために早急に研究を進める。また,新分類群であることが確定した種に関しては論文公表の準備を進める。
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Causes of Carryover |
最終年度におけるデータとりまとめと培養株整理のための人件費および,大学院生の海外での本研究に係る成果発表のための旅費を補助する必要性が予想されたため,翌年度繰り越しとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分に関しては,人件費および旅費に充当する予定。
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