2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト由来膜タンパク質のNMR構造解析に向けた基盤研究
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24370048
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
高橋 栄夫 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60265717)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 恒 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (20581284)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 膜タンパク質 / 酵母 / NMR |
Research Abstract |
昨年度から検討を始めたモデルタンパク質を用いた酵母発現系(K.lactis)による高効率な重水素化、メチル選択ラベル法については、一定の成果があげられたため論文としてまとめ公表した。 酵母発現系(P.pastoris)によるヒト膜タンパク質調製系については、昨年度までは、最少培地を用いた大量調製に問題があったが、(1)発現対象のコドン最適化、(2)酵母株の見直し、(3)ファーメンタ―を用いた発現時における栄養源供給時期および量の制御、(4)精製時の試料分解を制御するための複数の試み、などの工夫を施すことで、昨年度に比べ格段に発現量を改善することができた。その結果、限られた窒素源・炭素源(NH4Cl: 3g/L; methanol: 10mL/L)を用いる培養条件で、15N標識した試料(PMP22, FLAP)を調製し、1H-15N-TROSYスペクトルを得ることに成功した。また、高分子量膜タンパク質のNMR解析において必須となる重水素化ラベル試料調製のための重水培養も同様のアプローチで行うことが可能であった。また、FLAPについては特異的阻害剤(MK-591)の添加を行うことで特徴的なNMRスペクトルの変化も確認できたことから、今後NMR解析を進展させていくことが可能である感触も得た。 上記で試みたAOX1プロモーターによる発現系に加え、GAPプロモーターを用いた酵母発現系についても培養条件を制御することで、最少培地中でも十分な菌体の生育が見られるようになってきた。GAPプロモーター系は、昨年度までに確立したK.lactis発現系における培養・同位体ラベルアプローチがそのまま適用できると考えられ、低コストな安定同位体ラベル試料調製が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酵母発現系による安定同位体ラベル技術の開拓については、論文にまとめることができたため順調に進んでいると考えている。 ヒト膜タンパク質の酵母発現において、最少培地での発現量が低い問題については、発現・精製法の見直しにより大きく改善されたと考えており、実際に複数の膜タンパク質でNMRシグナルを観測できる状況になった。 一方で、発現した後の、酵母膜画分からの膜タンパク質の抽出(可溶化)条件については、膜タンパク質の個性に大きく依存するとともに、高効率に抽出できる界面活性剤が必ずしもNMR測定の際に適した界面活性剤となるわけではないことがわかったため、適切な界面活性剤の選択には、想定外の時間を要することになった。しかしながら、試行錯誤の末、複数の界面活性剤の組み合わせによる可溶化アプローチを行うことで、効果的な膜画分からの抽出ができることも判明し、現在までにある程度系統だった界面活性剤のスクリーニングの方針も定まってきたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、最少培地においても十分な発現量が得られ、良好な可溶化条件および長時間安定な状態を維持できたヒト膜タンパク質(FLAP等)について、優先的にNMR構造解析を推進する。均一安定同位体(13C, 15N)ラベル試料の大量調製を行った後、三重共鳴NMR測定により主鎖シグナルの帰属を実施する。帰属に際しては、複数のアミノ酸選択ラベル試料、さらに場合によっては部位特異変異体も活用する。シグナル帰属を進めながら、リガンド結合部位の同定・リガンド結合が誘起する構造変化、などの構造解析へと展開していく。平行して昨年度までに確立した酵母発現系によるメチル選択的ラベルなどの高度な安定同位体ラベル試料調製を高発現の膜タンパク質において実施する。上述のNMR解析において可溶化膜タンパク質試料の分子量が障壁となる局面では、本ラベル試料を活用したNMR構造・相互作用解析も併用する。 可溶化条件に問題がある膜タンパク質群については、今年度効果があることが確認できた、複合ミセル系を活用した界面活性剤のスクリーニングを継続するとともに、NLP(nanolipoprotein particle)を利用した脂質二重膜系への再構成も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、酵母発現系における最少培地条件下でのヒト膜タンパク質の発現量の向上、および膜画分に発現した膜タンパク質の可溶化の条件検討に予想以上の時間を要し、コストのかかる安定同位体ラベル膜タンパク質試料を複数調製し、NMR構造解析を多角的に進展させる状況には至らなかったため。 今年度までに確立できた発現系・精製法を用い、各種ラベル膜タンパク質試料を大量調製するための安定同位体ラベル試薬(重水、13C and/or 2Hラベル炭素源(グルコース、メタノール等)、15Nラベル塩化アンモニウム、選択的15N/13Cラベルアミノ酸群、等)に加え、精製関連試薬(各種界面活性剤、脂質、酵素阻害剤等)、実験器具の購入にあてる。より迅速に研究を進めるために研究補助員費への経費割り当て増額も計画をしている。
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