2013 Fiscal Year Annual Research Report
構造―機能相関からみる発生メカニズムーーー神経軸索形成をモデルとして
Project/Area Number |
24370086
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
多羽田 哲也 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (10183865)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | ショウジョウバエ / Sickie / アクチン / Cofilin / Slingshot / Rac / キノコ体 / 軸索伸長 |
Research Abstract |
[1] キノコ体(mushroom body)神経軸索の伸長を制御するメカニズムの解明 アクチン鎖の再構成に働くCoffilinはSlingshotによって脱リン酸化されることにより活性化され、LIMキナーゼにリン酸化されることによって不活化される。SickieはSlingshotを活性化することによりCoffilinを活性化している。ウエスタンブロッティングによりSickieの変異ではリン酸化 Coffilinの量が増加していることを観察、生化学的なデータを加えることができた。論文投稿中。 [2]キノコ体(mushroom body)神経軸索の走行、分枝を制御するメカニズムの解明 RNA干渉法による機能スクリーニングを行い、DIP2を得た。DIP2ノックダウン変異ではα/β神経の遠近軸に沿った走行をする軸索が背腹軸に沿って伸長する。また、軸索の分枝にも異常が観察される。(1)α/βニューロンを特異的にラベルするc739-GAL4を用いてレスキュー実験を行った結果、表現型がほぼ完全にレスキューされたことからDIP2は細胞自律的に機能することがわかった。また、DIP2の各機能ドメインを欠失したコンストラクトを作製し、DIP2変異体バックグラウンドで過剰発現させた所、AMP合成酵素ドメインを欠いたDIP2では表現型をレスキューする事が出来なかったことからこのドメインの重要性が明らかになった。 (2)タグを付けたDIP2を培養細胞で発現し、DIP2に結合する蛋白質を質量分析機を用いて同定した。 (3)DIP2の上流・下流因子を探索するため、既知の軸索誘導・軸索枝形成関連因子とDIP2の遺伝学的相互作用を確認した。その結果、Wnt5との相互作用が確認された。Wnt5はPCP因子との相互作用によってキノコ体の発生に関与している事が知られているが、PCP因子とDIP2の間には遺伝学的相互作用を認める事が出来なかった。この結果は、DIP2とWnt5の相互作用はPCP因子非依存的である可能性を強く示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Sickieの生化学的な解析を目指したが、変異でホモ接合致死になるような遺伝子を生化学解析に供するのは難しかった。リン酸化コフィリンに対するリン酸化特異抗体はウエスタンブロッティングに使用することができ、Sickieの機能を生化学的な側面から示すことができた。一方、非リン酸化コフィリンを特異的に検出する抗体は明瞭なシグナルを与えなかったので、リン酸化と非リン酸化コフィリンの存在比で、活性を推測することができなかった。後者については他のソースもあるためそれを用いて再度試みる。本研究で、アクチンの状態や、コフィリンのリン酸化状態を個体の中で観察することができたことには一定の評価が与えられてもよいかと思うが、そのような微妙な差を質量分析などの手法でより定量的に示す手法の開発が必要であることを感じた。また、固定した標本ではなく、生体のリアルタイムイメージングで検出できれば、記憶痕跡の解明にも寄与する可能性があり、近い将来実現したいものである。 DIP2に結合する蛋白質を同定するためにタグを付けたDIP2を用いてプルダウンアッセイを行い、質量分析器による解析に、ほぼ1年をかけた。当初、ショウジョウバエ個体での発現を試みたが、回収された蛋白質は解析するには微量であったため、培養細胞で発現させた標品を用いざるをえなかった。そのため得られたデータは必ずしも最良のものではないかもしれないが、本研究室の技術では極微量蛋白質の解析は難しい。そのために、DIP2変異と野生型とのトランスクリプトーム解析で得られた遺伝子の機能解析も行う。予備的な実験では、当該遺伝子の獲得形質変異はDIP2変異で増強される。その遺伝子の機能喪失変異を単離したので、それを用いた遺伝的相互作用の解析を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
[1] キノコ体(mushroom body)神経軸索の伸長を制御するメカニズムの解明 Sickieの機能を調べるために、生化学解析をさらに進める。Sickieはコフィリンを通してアクチン脱重合を制御し、公汎に発現しているにもかかわらず、変異の表現形がキノコ体および中心体など脳中枢の神経に限局されていることは、コフィリンがアクチン脱重合一般に機能していることと対照的である。さらに、Sickieはキノコ体などの形態形成と、発生期が終わった後も、キノコ体で発現し、その記憶形成能に必須であることが示唆され、事実、成体でのみSickieをノックダウンした場合、匂い記憶の形成に障害がある可能性が示唆された。中枢では特にアクチン脱重合の高度な制御を必要としていることを示しているのかもしれない。このことは脳機能など進化的に高度に制御された、細胞系を生み出すことに必要であったのかもしれない。そうしてみると単細胞生物などのように一見、進化的には古くても、個体のように外界の刺激情報を統合し判断しているかのように行動する細胞のアクチン制御は興味深い。将来はSickieの発現を制御するメカニズムの解析を通して、細胞の形態形成と機能発現を統括的に制御する進化的痕跡をゲノムに探りたい。またこれはアクチン鎖合成による細胞形態制御が、神経回路形成にいたるまでの進化を探る手がかりとしての側面も持ち、単細胞の動態を詳細にライブで観察することをその第一歩として試みる。 [2]キノコ体(mushroom body)神経軸索の走行、分枝を制御するメカニズムの解明 RNA (1)マイクロアレイを用いて、DIP2機能喪失変異で発現量が変動する遺伝子候補を得ている。得られた候補の機能解析を継続することによりDIP2の機能を明らかにする。(2)質量分析器を用いて同定したDIP2結合蛋白質の機能解析を行い、DIP2との相互作用の解析を通して、DIP2の機能を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
補助金及び基金の一部の範囲内で研究を遂行したため。 SickieおよびDip2の遺伝子機能を明らかにするために、26年度の経費と合わせて、様々な変異系統の作成、維持、増殖に用いる試薬、培地を購入する、また、これらの表現型解析のための分子生物学、発生生物学および神経生物学研究用試薬、実験器具を購入する。
|
Research Products
(3 results)