2014 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリアのコロニーを作らない変異株を用いたコロニー形成の機構解析
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24380044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
正木 春彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (50134515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
重松 亨 新潟薬科大学, 応用生物科学部, 教授 (10315286)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コロニー / 大腸菌 / 液体培地 / 固体培地 / 寒天培地 / VBNC / 脂肪酸合成 / ゲランガム |
Outline of Annual Research Achievements |
1.細菌をコロニーとして分離することは細菌学の基本で、細菌の存在も多くはコロニー形成能で定義される。しかし近年環境中の大半の細菌がコロニー形成できないことが判り、コロニー形成は生きる以上の特別な現象と判断されるはずだが,我々はその違いを知らず、コロニー分離法は膨大な細菌資源への障壁となっている。本研究では、コロニー形成能を失った大腸菌変異を取得し、コロニー形成に関わる遺伝子からコロニー形成とは何かを解明する。 コロニー形成不全変異:高温で液体培養できるが寒天培地にコロニーを作らないfabB温度感受性変異体を得た。FabBは脂肪酸合成の鍵酵素である。改めて野生株をもとにfabB欠失株を作り培地の影響を検討した(前年度までの成果)。合成培地に不飽和脂肪酸としてオレイン酸(OA)を加えると、OA制限条件では液体培養で増えるのに固体培養では増殖が抑制され75 ppb OAで全く増えかった。 fabB欠失株はコロニーを作りにくい環境細菌と挙動が似ており、脂肪酸供給不足ではとくに固体培養で生え難くなることが推定された。しかし環境細菌はfabB変異ではない。また大腸菌も野生型はOA依存性が全くない。大腸菌は通常培養で脂肪酸合成が十分なためOA添加の効果が見られないが、脂肪酸合成が不十分となれば固体増殖しにくくなると推定した。そこで野生株でfabB遺伝子のみ発現を制限すると、液体培養に比して固体培養が有意に抑制された。また環境細菌のモデルとして野生株を低温飢餓に曝してVBNC化すると、OA添加でコロニー形成頻度が上昇し、推定が支持された。 2.分担者は、大腸菌のコロニー形成に及ぼす固化剤の影響を解析した。液体培養によるMPN計測に対して、寒天やアガロースは濃度依存的にコロニー形成率を低下させた。一方、ゲランガムは濃度依存性を示さないが、概して寒天よりコロニー形成率が低かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.大腸菌のコロニー形成能を失った変異は、温度感受性変異を再現性よく分離するまでが困難であった。野性株ベースの脂肪酸合成遺伝子fabB欠失株を作製したことで、培地成分と生育特性の関係を正確に分析できたるようになり、fabB欠失株では、培地への微量の脂肪酸添加時に、液体培養に比べて固体培養での増殖が抑制される現象を見いだして、これがfabB欠失株がコロニーを作らない主原因だと考えられた。 コロニーを作らないfabB欠失株は,環境細菌がコロニーを作らない現象のモデル系として分離に成功し、その当初の目的は果たしたものだが、環境細菌そのものはfabB変異体ではない。また大腸菌野性株では通常条件で脂肪酸の添加効果はなくコロニーを作る。従ってfabB欠失株で、どのように環境細菌の性質を説明するかが次に問題となる。まず大腸菌野生株で、fabB遺伝子のみ発現を制限すると液体培養に比して固体培養が有意に抑制されたことから、大腸菌野性株では脂肪酸合成レベルが十分高いために固体、液体の差が出ないことが判った。また環境細菌のモデルとして大腸菌野生株を低温飢餓に曝してVBNC化すると、OA添加でコロニー形成頻度が上昇したので、やはり脂肪酸の供給不足で固体培養での増殖がとくに悪くなることが確認され、これで自然の状態の説明に近づいた。 2.一方、分担者の成果は、寒天そのものが、固体培養でのコロニー形成数の低さを、一部説明する可能性を示す。しかし現時点では現象論に留まっており、各固化剤に含まれるコロニー形成に影響を及ぼす要因を明らかにする必要がある。 いずれも成果としては当初の計画以上のものが生まれつつあるが、代表者、分担者とも、中心となる論文発表が遅れている点で、「おおむね順調に進展」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. コロニー不全大腸菌変異株の研究(代表者):環境細菌がコロニーを作りにくい原因として、脂肪酸の供給不足を示唆できたが、最終目標はこれが環境細菌の性質を説明できるかどうかである。①土壌などの環境サンプルからコロニーを作らせる際に、脂肪酸の添加がコロニー頻度を増加させるかどうかを調べる。未知の多種の細菌のコロニー数なので、たとえ想定が正しいとしても有意なデータとなるかどうかは不明。②FabBを阻害する薬剤、セルレニンを大腸菌に添加することで、fabB変異体と同様の固体培養での増殖抑制が見られれば、環境中の任意の未同定細菌に対しても、セルレニンを添加することで脂肪酸供給不足状態を作ることが可能で、環境細菌のコロニー形成でも脂肪酸供給が律速となっていることを示すことができる。③実験では不飽和脂肪酸として入手容易なオレイン酸を用いてきたが、大腸菌の主要不飽和脂肪酸は、2重結合の位置が異なるシスバクセン酸である。シスバクセン酸でもオレイン酸と同様の効果を示すのか確認する必要がある。 2. 以上の成果の論文による公表を急ぐ。
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Causes of Carryover |
大腸菌のコロニー形成不全変異の性質を検討し,大腸菌の一般的性質として脂肪酸合成系の発現が低い場合や,低温飢餓ストレス条件下にある場合には,液体培養に比べて固体培養での増殖が抑制される、従ってコロニー形成しにくいことを明らかにした。しかし,この大腸菌変異体はほんらい,環境細菌のモデルとして分離したものであり,この変異体を分析して得られた知見(不飽和脂肪酸供給の重要性)が,大腸菌以外の多くの細菌にも適応できるかどうかを明らかにする必要があり,さらに,これらに関する論文投稿を進めなくてはならないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1) 土壌などの環境サンプルからコロニーを作らせる際に、脂肪酸の添加がコロニー頻度を増加させるかどうかを調べる。(2) FabBを阻害する薬剤、セルレニンを大腸菌に添加することで、fabB変異体と同様の固体培養での増殖抑制が見られるかどうか検討する。もしセルレニン添加がfabB変異様の性質を示せば,環境中の任意の未同定細菌に対してもセルレニンを添加することで脂肪酸供給不足状態を作ることが可能で、環境細菌のコロニー形成でも脂肪酸供給が律速となっているか検討することができる。(3) 今まで実験では不飽和脂肪酸として入手容易なオレイン酸を用いてきたが、大腸菌の主要不飽和脂肪酸は、2重結合の位置が異なるシスバクセン酸である。シスバクセン酸でもオレイン酸と同様の効果を示すのかを確認する。 以上の見極め実験を行うとともに,論文投稿と成果公表を完結させる。
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Research Products
(5 results)