2013 Fiscal Year Annual Research Report
逆ミセル連続反応法によるインスリンの液相完全化学合成
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24380061
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
千葉 一裕 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20227325)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 承鶴 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90537127)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ペプチド / インスリン / 電解合成 / 有機合成化学 |
Research Abstract |
ペプチド合成中間体のアミド水素結合ブロック法の開発 本研究では、申請者らがこれまでに重点的に開発研究した電解合成法を応用し、保護基を新たにペプチドアミド結合保護基として導入することによって、ペプチド合成中間体の異常物性変化を抑制し、多段階合成を実現する新たな方法を開発した。この方法の最大の特徴は、アミド水素結合をブロックする保護基の脱保護反応を、酸・アルカリを使用せず、電極電子移動によって目的を達成した。これによって、低電位で反応が進行し、アミノ酸残基や側鎖保護基に影響を与えずに選択的に切断する一般的な方法となることが期待される。 選択的分子内ジスルフィド結合形成の制御法に関する研究 インスリンの完全化学合成を達成するためには、分子内ジスルフィド結合を選択的に実現する必要がある。昨年度までの研究により、電気化学的な方法を用いることによって極めて選択的かつ効率的に達成できることを明らかにした。この方法はAcm基で保護した2つのシスティン残基を有するペプチドを臭素イオンを含む支持電解質存在下、カーボンフェルトを陽極に用いて電解酸化することによって、分子内ジスルフィド結合形成を実現したものであり、保護基を適宜変換することにより複数のジスルフィド結合を形成できる可能性を大きく広げる事ができた。本年度は、この手法を発展、応用して、分子内ジスルフィド結合の選択的形成方法の確立を目指した。その結果、チオール保護基のかさ高さおよび酸化電位を制御することにより、電解反応により反応の順序を制御できる新たなシステムを構築することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではアミノ酸残基を30以上有し、分子内に複数のジスルフィド結合を有する化合物の化学合成を達成することを目的としている。これを達成するための重要な項目として、1)液相反応系において多段階反応を実現する反応システムの構築、2)ジスルフィド結合を選択的に形成するための新たな方法の開発、3)合成途上で遭遇することが予想されるペプチドの物性による合成継続の障壁に対する対策、があげられる。これらの課題について平成25年度内に一通りの検討を行い、いずれも最終年度末までに解決し、目標を達成できることが見込みとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ペプチド合成の進行を妨げる最も大きな課題として、合成中間体を含む反応溶液の粘度の急激な上昇や生成物の不溶化による反応・分離が困難になる点が掲げられる。特にアミノ酸残基数の大きなペプチドの合成では、必ずこのような問題点に遭遇するため、多くの場合、全合成が達成できない。本研究では、濾過操作を必要としない、生成物の沈殿分別法を新たに開発・導入し、この問題を克服する。本法は、疎水性溶媒中に疎水性タグに結合したペプチド逆ミセルと共に、疎水性磁性ナノ粒子(平均粒径10~20 nm)を分散させることを基本原理とする。疎水性磁性ナノ粒子は、酸化鉄およびオレイン酸を用いて合成するが、この方法についてはすでに予備実験を完了し、目的とする粒子を調整できることを確認している。この粒子を用い、ペプチド鎖伸長反応が完結する度に、溶液にメタノール等の極性溶媒を添加し、疎水性タグを有するペプチドは疎水性磁性ナノ粒子に捕捉、凝集させることにより、生成物であるペプチドだけを選択的に磁気回収する方法を実用レベルで適用可能にすることを計画している。 この方法では、沈殿物をフィルター等を用いて濾過する必要がなく、たとえ粘度が高い沈殿となった場合にも、連続的に精製、溶解、反応の操作を一つの容器内で進めることができるものと期待される。特に、総計120段階以上のペプチド分子の合成を実現するためには、反応・分離毎の分離精製による迅速かつ高い回収率の実現が極めて重要であり、本法が重要な役割を果たすものと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究推進にあたり、効率的な執行を行うことができた。次年度は最終年度につき、実験スケールをあげた研究を実施し、最終目標を達成するために有効であると判断した。 実験スケール増大に伴う物品費の増額を中心に次年度の使用計画を立てた。
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