2013 Fiscal Year Annual Research Report
視床下部オレキシンを標的とした情動と糖代謝の連動的制御による糖尿病治療法の開発
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24390056
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
笹岡 利安 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
恒枝 宏史 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (20332661)
和田 努 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 講師 (00419334)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ストレス / インスリン抵抗性 / オレキシン / うつ / 日内リズム |
Research Abstract |
情動の変化が糖代謝に影響を及ぼす機序を検討するため、情動系と中枢性糖代謝調節の両者に関与する視床下部オレキシンのストレスに対する防御機構としての役割を探究した。うつは耐糖能異常の発症リスクを増大させるが、その機序は不明である。オレキシンの低下がうつに伴う糖代謝異常に関与することを明らかにするため、野生型(WT)マウスとオレキシン欠損(KO)マウスに社会性敗北ストレスを負荷して慢性的なうつを誘発し、糖代謝への影響を検討した。マウスを攻撃性の高いICRマウスと10日間同居させ、社会性敗北ストレスを負荷した。その後、自由摂食下で11日間飼育し社会性相互作用試験によりうつ状態を評価した。ストレス負荷によりWTおよびKOマウスはいずれも慢性的なうつを呈したが、KOマウスでのみGTTでの顕著な耐糖能異常と高インスリン血症を認めた。その機序として肝でのIRS以後のステップでの異常によるAktリン酸化の障害に起因したインスリン作用低下と、ピルビン酸負荷試験での糖産生の亢進を認めた。一方、オレキシン系の活性化を誘発する30%カロリー制限を行うと、WTマウスにおいてうつの発症が抑制され耐糖能異常が防止されるのに対し、KOではこれらの改善効果を認めなかった。以上より、通常食餌下では社会性敗北ストレスによりうつが誘発されるが、オレキシンの作用により肝臓での糖産生調節を正常に維持することで全身の糖代謝恒常性が維持される。また、カロリー制限によりオレキシン系がより活性化されると、ストレス下でのうつの発症自体が抑制され、糖代謝異常の発症も防止されることが示された。以上より、視床下部オレキシン系は慢性的なうつに伴う糖代謝異常に対する生体防御因子であり、うつと糖尿病の新規治療戦略を考える上で重要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度科学研究費助成事業交付申請書において、平成25年度の研究実施計画に記載した通り、本年度は、(1)オレキシンの欠損によりストレス負荷後のインスリン抵抗性が増加する機序の解析、(2)ストレスによるインスリン抵抗性の増大に対するオレキシンの治療効果の検討、(3)末梢時計の破綻した糖尿病マウスに対するオレキシンの治療効果の時間薬理学的解析を行った。その結果、社会性敗北ストレス負荷法による慢性的うつモデルマウスでは、オレキシンが欠損すると、主に肝でのインスリンシグナルの障害による糖新生の亢進によりインスリン抵抗性が引き起こされることを明らかにした。また、その際、カロリー制限食摂取によりオレキシン神経系を活性化させると、うつとインスリン抵抗性が改善されたことから、オレキシン神経系の活性化によるうつに伴う耐糖能異常の新たな治療戦略の開発基盤となる知見を得ることができた。さらに、2型糖尿病モデルマウスdb/dbの活動期(夜9時)にオレキシンを脳室内投与することで、翌朝以後の血糖を効果的に改善する知見を得た。本成績は覚醒時にオレキシン系を活性化することで、自律神経系を介した日内リズムを整え、糖代謝を効果的に改善する新たな2型糖尿病時間療法の開発基盤となる知見と考えられる。以上より、平成25年度に計画した研究実施計画をおおむね順調に遂行し、研究を進展させることができ、本研究成果をもとに、視床下部オレキシンを標的とした情動と糖代謝の連動的制御による糖尿病治療法の開発に向けて更に研究を推進することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に慢性的なうつに伴うインスリン抵抗性の機序とオレキシン神経系の活性化による治療効果を明らかにすることができたため、平成26年度は日内リズムの破綻した糖尿病マウスに対するオレキシンの治療効果の時間薬理学的解析を更に推進する。2型糖尿病モデルマウスdb/dbの脳室内にオレキシンAを覚醒開始時に投与して、覚醒時のオレキシン神経系の活性化が、時計遺伝子の発現異常と、糖負荷およびインスリン負荷試験により判定した糖代謝の改善効果とその機序の解析を、肝臓の小胞体ストレス応答に着目して検討する。また、db/dbマウスの睡眠開始時にオレキシン受容体阻害剤を投与して、適切な生理的睡眠の導入が耐糖能に及ぼす影響とその機序を、糖負荷およびインスリン負荷試験や小動物代謝解析システムを用いて検討することで研究を推進する。さらに、情動に重要な役割を担うドパミン受容体の欠損が糖代謝に及ぼす解析の検討を開始する。これらの研究を推進することで、視床下部のオレキシンを標的とした情動と糖代謝の連動的制御による新規脳尿病治療法の開発を目指す予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費次年度使用額が生じた理由に関しては、平成25年度の研究目的が順調に達成でき、次年度以後の経費のために努力して節約して研究を実施できたため、平成26年度の研究で合わせて使用する。 糖尿病マウスに対するオレキシンの治療効果の薬理学的解析と、ドパミン受容体の欠損が糖代謝に及ぼす影響の解析研究の実施に際して、多額の動物購入・飼育費が必要となるため、本経費として主に使用することを計画している。平成26年度は、補助事業に要する経費として合わせて使用する予定である。物品費の内消耗品費の明細は、動物購入・飼育費、遺伝子解析用試薬、タンパク解析用試薬、投与薬物費、細胞培養試薬、一般試薬である。
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Research Products
(15 results)
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[Journal Article] Rational design and synthesis of 4-substituted 2-pyridin-2-ylamides with inhibitory effects on SH2 domain-containing inositol 5'-phosphatase 2 (SHIP2).2013
Author(s)
Ichihara Y, Fujimura R, Tsuneki H, Wada T, Okamoto K, Gouda H, Hirono S, Sugimoto K, Matsuya Y, Sasaoka T, Toyooka N.
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Journal Title
Eur J Med Chem.
Volume: 62
Pages: 649-660
DOI
Peer Reviewed
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