2013 Fiscal Year Research-status Report
アフリカ農民の流動性、生業の多様性、および「秩序」に関する研究
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24401012
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
島田 周平 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90170943)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アフリカ農民 / 流動性 / 多様性 / 秩序 / 脆弱性 |
Research Abstract |
今年度はザンビアで2度現地調査を実施した。1度目の調査では首長・伝統省と地方政府・住宅省を訪問し、現在進められている地方分権化と伝統的首長制度の制度化について聴き取り調査を行った。2度目の調査では20年来調査中のリテタ地区の首長ならびに同地区C村の農民から聴き取り調査を行った。 C村の農民の聴き取り調査では、最近の商業的野菜栽培の実態や農業から非農業活動に比重を移してきた農民の経歴などを調査した。農村部にも携帯電話の普及が急速で、農民の生業活動の多様化や流動化に大きな影響を与えていることが明らかになった。携帯電話を利用した送金やクーポン券の発行と、そのクーポン券を利用した農業資材の購入などが進んでいることが明らかとなった。 一方、伝統的首長制度の変更と農村社会の「秩序」に関する調査では、2012年に誕生した愛国戦線党(PF)政府による首長省の新設と首長層の公的地位の認知が彼らの活動を勢いづかせていることが分かった。一部の首長は、USAIDや国際NGOの地域開発計画の受け皿となって活動している。他方政府は地方分権化政策を実施しており、地方政府と首長との間の関係に緊張が生まれつつある。最末端の行政単位である地区(Ward)と伝統的首長領との関係(PFのマニフェストでは一致させるとあった)を巡る問題や首長会議に地方議会決定事項の拒否権を与えるか否かの問題(地方政府省はこれに反対)など、重要な問題が生起しつつあることも明らかとなった。 首長の地方政治レベルにおける正式な認知は、彼らの領域内での土地所有権に対する権力にも変化を生じはじめており、新しい「秩序」破壊の可能性をもっていることが明らかになった。聴き取りを行ったリテタ首長は領内における土地私有化に積極的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナイジェリアの調査地(イビラ地方)では、農業生産の多様化に限界があり非農業部門への進出で生業の多様化が進められていた。若者達は村外(とりわけ都市部)に流出し、調査地の農村社会では農家世帯の脆弱性が増大しつつあった。経済発展の遅れた調査地域では、農村世帯の脆弱性増大が若者達の周辺化意識を増幅させ、政府に対する不満を増大させ2000年代以降何度か暴動が起きてきていることが明らかとなった。昨年の首都アブジャでのイビラ同郷者集団の聴き取り調査では、急速な拡大を見せつつあるこれらの集団が、故郷の政治的抗争の仲介や故郷の祭り、インフラの整備等に大きな貢献をしていることが明らかになった。 25年度に実施したザンビアでの現地調査では、農村部での農業の多様化に加え、一部農民の脱農化が進んでいること、そのことが農家世帯の脆弱性増大の緩和に一定の効果を持っていることが明らかになってきた。しかし、現在検討が進められている首長制度の改正や地方分権化の動きが農村社会に大きなインパクトを与える可能性があることが明らかになってきた。とりわけ伝統的年所有制度の中で一定の力を持つ首長達が、グローバル化が進む中で領内への外部資金投資誘引に積極的であることが判明した。このことが農村部の脆弱性と「秩序」にどのような影響を与えるか、重要な研究課題として浮かび上がってきている。 上記の2カ国での調査では、1990年代以降の経済の自由化が農村部の生業の多様化や農民の脱農化を推し進め、それが経済格差の拡大や地方権力の変化と関係があること、さらにそれらの変化が農村社会の「秩序」に影響を与えていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の26年度は、当初の計画で予定していたナイジェリアでの現地調査が北部におけるボコハラムの影響で困難な情勢になったので、1年次の現地調査の結果をもとに、イギリスとアメリカにおける文献調査ならびに研究者からの聴き取りを実施し、それらの成果をうけて日本で国際シンポジウムを開催する。ナイジェリアにおけるボコハラムやニジェールデルタ地域における地域紛争(およびテロ活動)と農村社会の脆弱性増大や「秩序」形成の失敗とどのような関係が認められるのかに焦点を当て、南部ナイジェリアの専門家であるMeagher博士かBerry 教授、さらに北部ナイジェリアの専門家であるRaufu博士を日本に招聘し、「ナイジェリア農村社会の脆弱性増大と「秩序」の変化(仮題)」というテーマで国際シンポジウムを開催することを計画している。 またザンビアにおける村落調査の結果をまとめて、ザンビア大学において講演し現地の研究者と意見交換したい。ここでは、生業の多様化と人々の流動性増大が進んでいるザンビア農村部の社会変容が村落社会の脆弱性増大にどのように関わっているのか、また地方分権化の推進と首長制度の見直しとどのような関わり合いを持って来るのかといった点について検討してみたい。地方政府と伝統的首長との権力関係の再調整といった問題は古くからの問題であるが、グローバル化が急速に進むアフリカ諸国ではザンビアのみならずほとんどのアフリカ諸国で再検討が必要な新しい問題となってきている。 これらの成果を学会で報告し且つ論文にまとめ公表したい。
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Research Products
(7 results)