2012 Fiscal Year Research-status Report
セネガル、ニアセン教団における境界の超越とアフリカ諸国への拡大の比較研究
Project/Area Number |
24401037
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
盛 恵子 名古屋大学, 文学研究科, 研究員 (30566998)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | イスラーム / セネガル / ニアセン教団 / スーフィー教団 / 世界市民 / エスニシティ / モーリタニア / 黒人と白人 |
Research Abstract |
本研究は、盛恵子を研究代表者とする挑戦的萌芽研究(平成22~24年度)の成果を土台とする。後者においてセネガルのスーフィー教団ニアセンは、その本拠地スィン・サールム地方に住むイスラーム化が遅れた民族でありかつこの教団の重要な支持者であるセレールにとって、彼らのエスニシティをイスラームの領域の内部で汲み上げる役割を持つこと、またニアセニズムがモーリタニアの、預言者ムハンマドの子孫とされる白人部族イダ・ウ・アリーや、西アフリカの諸民族に受容されたという事実が、人種・民族・国家を超越するイスラーム共同体の一員であるという誇りをセレールに与えることが明らかになった。これは、同じくセネガルのスーフィー教団であるライエンが、レブー民族のエスニシティ維持に特化しているのとは対照的な方向性である。これを踏まえて本研究は、ニアセン教団が定着した諸国の比較研究を通じて、ニアセン教団に境界の超越を可能ならしめる原動力を探ろうとする。その下準備と位置づけられる今年度の成果は、 (1)サールム地方に位置する教団の聖都カオラックと、セレールが優越する地域であるところのその周辺の37の農村を巡ることによって現状を確認した。カオラック周辺部では布教が地縁血縁を駆使して行われたこと、教団成立当時に落花生交易の中心地かつ交通の要衝だった商都カオラックの政治的経済的求心力が教団の一層の拡大を促したこと、さらにニアセニズムは都市と農村とを問わず近年セネガルの青年層に急速に浸透しつつあることがわかった。 (2)カオラックで行われた教団の祭りガンムとガンム・アットに参加するために各国から参集した信徒たちと接触した。ナイジェリア、ガーナ、ブルキナ・ファソ、ガンビア、モーリタニアの教団指導者たちから、その国のニアセニズム受容の経緯を聞き、また調査の受け入れ許可を得た。またセネガルの教団中枢部の人々からは、教団は「世界市民」を標榜するが、他国家多民族に渉る信徒たちの対応には、言語や文化の差異等に由来する実際的な諸問題があり、教団は彼らの統括を志すも未だ果たせていないという悩みが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度から聖都カオラックでの調査と教団の祭りへの参加を継続することによって教団関係者の間での信頼獲得と人脈の拡大に努めてきたため、今年度ようやく教団の実務レベルの責任者たちと接触することができ、教団の拡大に伴って生じた具体的な諸問題を知ることができた。また次年度から始めるセネガル以外の諸国での調査の準備として、各国の第一級の教団指導者たちに会って基本的な情報を得、また彼らが影響力を持つところの地域の信徒団に対する調査の受け入れ許可を得て、調査の安全と効率をはかることができた。しかし今年度は、モーリタニアの第一級の指導者たちとは接触することができなかった。他の諸国の指導者たちは、カオラックで2つの祭りの両方に参加した後帰国するのが常であるのに、モーリタニアの指導者たちは、最初の祭りの後すぐに帰国してしまった。これは予想外のことだった。また彼らはカオラック在住のセネガル人とモール人に多くの弟子を持つため、最初の祭りの前後には超多忙であり、接触の機会が得られなかった。したがってモーリタニアについては、カオラック在住の第二級の指導者を通じて、ニアセン教団が拡大したモーリタニアの地域や村々の名前等の情報を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の主題であるニアセン教団の「境界の超越」において、超越されるべき境界は人種、民族、国家、性差別であるといえるが、次年度の研究の焦点は「人種」と「民族」であり、モーリタニアで調査を行う。モーリタニアのモール人は白人と黒人から成り、アラブ、ベルベル、黒人の諸部族が社会階層を形成するが、とりわけ黒人部族は白人部族に隷族するとみなされる。白人のモール人はまた、現セネガルの黒人を奴隷化して商品として交易した歴史を持つ。このような文化的背景を持つモーリタニアにおいて、イダ・ウ・アリー部族の成員ムハマドゥ・アル・ナーウィがニアセン教団創設者イブラヒマ・ニアスの弟子となったことを契機に、イダ・ウ・アリーの一部がニアセン信徒になった。黒人を賎視する白人モールが黒人であるニアスに帰服したことを黒人のニアセン信徒は「奇跡」とみなしており、また伝統的に高いイスラーム的権威を持つこの部族の帰服は、他の黒人諸国家へのニアセン教団拡大を促進した。ニアセンが定着した村々の宗教指導者と住民から聞き取り調査を行うことによって、黒人の宗教指導者に対する帰服はどのように起こったのか、ニアセニズムは彼らの人種差別意識一般に変容をもたらしたのか、彼らの自国の黒人に対する態度は変わったのか、ニアセニズムはモーリタニアの人種問題になんらかの実際的な影響を及ぼしているのか、等の問題を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の交付金110万円のうち約50万円は、研究代表者と連携協力者の2名分の格安航空件購入に充てる。パリ経由でセネガルの首都ダカールに行き、公共の乗り合いタクシーやミニバスを利用して陸路でモーリタニアに入る。セネガルから入国する理由は、モーリタニアは人口の少ない村々が散在する砂漠であり、公共交通機関が乏しく、かつ地縁血縁に大きな価値を置く部族社会の特色を残しているため、土地に詳しい現地の人の助力を得ることが必須なので、セネガルのニャーサンテ村に住む知人の夫を訪問し、モーリタニア在住の彼の親族を紹介してもらい、可能ならば同行を依頼するためである。もうひとつの理由は、モーリタニアの生活条件の劣悪さである。砂漠なので、水・食料いずれもセネガルよりはるかに乏しく、交通手段も乏しい。したがって滞在可能な日数は現地の物資の条件に規定され、現時点では正確に予測することができない。フィクスの格安航空券を使うので、もし日数に余剰が生じた場合、モーリタニアの首都ヌアクショットで出国の日を待つより、セネガルで調査を継続する方が成果が上がると考えられる。残金は滞在費と、教団指導者への献金に充てる。彼らは超自然的な力を持つ聖者とみなされるので、信徒が彼らと面会する際には、かなり高額な献金を行うことが慣習となっている。
|
Research Products
(2 results)