2013 Fiscal Year Research-status Report
精神障害者の開かれた共生コミュニティ形成の伊米比較調査
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24402040
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
藤井 達也 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (80248905)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 精神障害者 / 共生・自律支援 / コミュニティ形成 / 開かれた共生ネットワーク / 経済的基盤 / 社会的協同組合 / 社会的企業 / 伊米比較調査 |
Research Abstract |
平成25年度のイタリアの調査研究は、ヴェローナのLorenzo Burti教授、トリエステのClaudia Batiston等の研究協力により、8月と10-11月の事例調査を順調に進めることができた。イタリアの各事例では、「精神障害者の開かれた共生ネットワーク」という用語の方が、より適切に事例の実践を捉えられることが明らかになってきた。特に、Burti教授は、以前に、オープン・ネットワーク・オリエンテーションという用語を用いていたこともあり、「共生コミュニティ」という用語には否定的である。Comunitaというイタリア語について、検討を継続する。 アメリカの調査研究は、ニューヨーク市立大学のJames Mandiberg准教授の協力により、9月にニューヨークで二つの活動事例調査を実施できた。Mandiberg准教授は、「アイデンティティ・コミュニティ」概念を提唱しており、その主張の根拠の一部となっている二つの事例を実際に調査し、二人で討論も重ねられた。ここでは、「コミュニティ」概念が重要な意味を持っていた。そして、10-11月のイタリア調査の最後に、トリエステで開催された国際セミナーに参加し、講師として招待されたRichard Warner医師とMandiberg准教授と再会し、「共生コミュニティ」の労働の側面について、さらに検討することができた。一昨年のコロラド調査とつながる意義があった。 10-11月のイタリア調査は、二つのイタリアの事例調査以外の事例も調査し(アレッツオ)、さらに伊米比較調査の核心となる労働についても、トリエステの国際セミナーで検討できた。イタリアの社会的協同組合とアメリカの社会的企業は、精神障害者の開かれた共生コミュニティ形成に不可欠な取り組みであることを明らかにできた。この知見を、3月のニューヨーク調査で明確化する予定であった。しかし、病気で入院したために、次年度課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
イタリアの二つの事例調査は、順調に進められている。予想外の出来事は、イタリアの財政危機の影響による実践事例の活動の変化である。トリエステの場合は、政治的要因も強くあり、現在進行中の政治・経済的要因の検討をどこまで進めるか、検討課題である。アメリカの事例調査は、一年目の調査地ではなく、ニューヨークでの調査となったために、調査すべき課題が多くある。特に、クラブハウスの新展開は、重要な課題である。3月にも調査をする予定であったが、病気のために進展させられなかった。 Mandiberg准教授は、昨年の夏にコロンビア大学からニューヨーク市立大学に転職したが、ニューヨークの調査事例は、非常に先進的な試みをしている。調査すべき課題は多くあるが、社会的企業の試みだけでなく、精神障害者が仲間の起業を支援する仕組みづくりもする、非常に重要な事例を知ることができた。共生コミュニティ形成の支援を、精神障害者自身が試みているのである。この事例を知ったことで、研究課題はさらに増えたが、開かれた共生コミュニティ形成の試みは、21世紀の地域精神保健福祉の実践において不可欠な取り組みであると捉え、調査計画を再検討している。 伊米比較調査の企画は、トリエステの国際セミナーで「リカバリーと労働」というテーマで取り上げられるほどに、国際的にも関心の高いものになりつつある。そこに参加し、討論できたことは意義深い。社会的協同組合の試みを実施してきたイタリアの実践が、アメリカの就労支援の方法を学び始めている。しかし、Mandiberg准教授は、社会的企業によるアイデンティティ・コミュニティの提案により、イタリアの社会的協同組合という集合的介入・支援の方法の再評価を促していた。 今回の調査研究は、当初の予想以上に精神障害者の支援における重要なテーマとなってきている。そのために、文献研究や国内調査課題も多くなってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、研究の最終年の研究計画を再検討しているが、幸いなことに6月末にMandiberg准教授が来日予定である。二人で話し合って、研究テーマを絞り込み、ニューヨーク事例調査の射程を限定し、実施計画を立てる予定である。イタリアについては、ヴェローナの事例調査のまとめを先に行い、最終的な調査を夏か秋に実施する予定である。トリエステの事例調査については、今年も国際セミナーが開催される予定なので、その時期に合わせて調査を行う予定である。さらに、アレッツオからDalco医師が来日予定であり、直接に事例として提示しないとしても、参考事例として提示できるように情報収集する予定である。 予定よりやや遅れている調査であるが、アメリカとイタリアの研究協力者は、どちらも非常に協力的であるので、対話を重ね、研究計画においてテーマを絞り込み、最終年度の調査を遂行したいと考えている。また、発展してきた研究課題のために、国内調査も追加し、日本における精神障害者の開かれた共生コミュニティ形成の実践モデルを、ソーシャル・インクルージョンを推進する新しい方法として具体的に提案したい。 本研究を推進するために、直接関連しない他の仕事はお断りして、研究に投入する時間の確保に努めている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
9月のニューヨーク調査では、研究協力者のジェームズ・マンディバーグ准教授が宿泊先として、調査対象のファウンテン・ハウスのゲストハウスでの宿泊を紹介してくれたので、無料で宿泊ができた。11月のトリエステの国際セミナーの参加費が無料になった。そして、11月のイタリア調査からの帰国後に発病し、2月下旬ー3月のニューヨーク調査を断念したこと等による。 今年度が調査の最終年なので、イタリア調査を2回とニューヨーク調査を2回実施したいと考えている。また、必要になれば、短期でも調査に行くつもりで準備する。ニューヨーク調査では通訳を活用しなかったが、今年度は正確に把握するために、過去2年間よりも通訳を多く入れる。イタリアでも、通訳を限定して活用していたが、今年度は多く活用したい。海外調査の計画は、Mandiberg准教授が6月末に来日予定なので、話し合って確定したいと考えている。また、イタリア調査の1回は、トリエステの国際セミナーに参加したいので、その予定が確定してから、決定したい。また、調査している活動が発展しているので、関連する国内の活動の調査を計画し、実施する。そして、文献収集の範囲を拡大し、文献を収集することを考えている。 物品費(文献の収集対象を拡大する)、旅費(海外と国内を追加)、人件費・謝金(通訳を多く活用する)。
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