2014 Fiscal Year Annual Research Report
火山性化学成分モニタリングによるインドネシアムラピ火山活動の実態調査と環境影響
Project/Area Number |
24404002
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 茂 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (10137987)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ムラピ山 / 火山性化学成分 / 火山性ガス / 環境モニタリング / 環境影響 / インドネシア / 実態調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2010年10月26日に、インドネシア・ジャワ島中央部に位置するムラピ火山が噴火した。ムラピ火山は、過去500年間に70回の噴火を記録した世界でも有数な活火山であり、2010年の噴火は、1872年以来の最大の噴火となり、死者300人を超え、避難者総数38万人と言った甚大な損害をこうむる結果となった。幸いなことに、噴火は約1ヶ月で収まり、現在は小康状態が続いている。 ムラピ火山は、インドネシアの古都で知られるジョグジャカルタ市から北へ30kmに位置しており、ジョグジャカルタ市は常にムラピ火山からの影響を受けている。しかしながら、火山性化学成分のモニタリングによる観測データに基づく環境影響についての研究は、残念ながらほとんど進んでいない。そこで、インドネシア・ジョグジャカルタ市において3ヵ年長期的・効率的な大気観測を継続的に行うことで、ムラピ火山によるジョグジャカルタ市への大気汚染の実態と動向を把握し、有効な環境対策を提案できる精度の高い環境影響評価手法の確立を目指す。 2012年9月に、研究代表者の田中と司馬 (慶應義塾大学理工学部研究員)が、インドネシア・ガジャマダ大学を訪問し、海外研究協力者としてインドネシア・ガジャマダ大学のスリ・ジュアリ・サントサ教授とインドネシア国立科学院化学部門研究員のマルヤナ・ロニ氏の協力を得て、ガジャマダ大学での大気観測を開始した。大気粉塵と火山性ガスの採取を1週間毎に行い、現在も継続され、既に120を超える試料数となった。採取された大気試料は慶應義塾大学理工学部へ3ヶ月毎に空輸され、大気粉塵中の化学イオン成分と大気汚染ガス(NO2,SO2,NH3)の分析を主に行ってきた。2010年の噴火以降、ムラピ火山が小康状態にあり、2年半の大気観測から、火山性ガス、火山性成分濃度の特異的な上昇は認められず、今のところ、ムラピ火山によるジョグジャカルタ市への環境影響は少ない状況であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を開始した平成24年度は、海外研究協力者としてインドネシア・ガジャマダ大学のスリ・ジュアリ・サントサ教授の尽力により、ガジャマダ大学で校舎の屋上に日本から送付した観測機材を設置し大気観測を9月から開始することができた。大気粉塵と火山性ガスの採取を1週間毎に行い、現在も継続されている。採取された大気試料は慶應義塾大学理工学部へ3ヶ月毎に空輸され化学成分の分析を行うことができ順調に研究が進行した。その一方で、当初の研究計画では、大気観測地点をムラピ山周辺に設置する予定であったが、2010年10月の噴火以降、ムラピ火山周辺への入山は禁止されており、また、周辺の道路なども被害を受けたままの状態で、ムラピ火山周辺での大気観測は困難な状況が続いている。 平成27年3月に、ガジャマダ大学のスリ・ジュアリ・サントサ教授が慶應義塾大学理工学部を訪問し、平成26年度の研究成果の報告と今後の研究計画について打ち合わせを行った結果、平成27年度も更に1年間ガジャマダ大学での大気観測を引き続いて行うこととなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に、ガジャマダ大学で大気観測を開始することができ、既に、2年半の大気観測を継続して行うことができた。2010年の噴火以降、ムラピ火山が小康状態にあり、2年半の大気観測の期間中、火山性ガス、火山性成分濃度の特異的な上昇は認められず、今のところ、ムラピ火山によるジョグジャカルタ市への環境影響は少ない状況であった。しかしながら、120試料を越える蓄積された大気観測データを基に、気流の後方流跡線解析を利用して、ジョグジャカルタ市における雨季(7月~9月)と乾季(12月~3月)における大気粉塵の化学成分の特徴が明らかとなった。乾季には、南東方向の気流が卓越し、ジョクジャカルタ市は海洋大気の影響を受け、Na+やCl-と言った海塩起源の化学成分濃度が増加した。逆に、雨季では西風が多く、大気汚染、化石燃料を起源とするNO3-、SO42-と言った化学イオン成分濃度が高かった。 今後は、ムラピ火山からの火山性化学成分の輸送プロセスを明らかにするとともに、ジョグジャカルタ市への環境影響についても検討を行う。また、偶然にも2014年2月13日にジョグジャカルタ市から200km東に位置するジャワ島クルド火山が噴火した。今後は、ムラピ火山と合わせてクルド火山の影響も考慮していく必要がある。
|
Causes of Carryover |
インドネシア・ムラピ火山は2010年10月に噴火し、その火山活動の実態調査と環境影響を明らかにするために、ガジャマダ大学のスリ・ジュアリ・サントサ教授の協力により、ジョグジャカルタ市において、2012年9月から大気観測を行ってきた。当初の予定では、ジョグジャカルタ市だけでなく、ムラピ火山周辺での大気観測を予定したが、火山噴火の被害が予想以上に大きく、ムラピ火山周辺での大気観測ができなくなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
ガジャマダ大学のスリ・ジュアリ・サントサ教授の申し出により、平成27年度、更に1年間の大気観測の継続が可能であり、その大気観測のための消耗品と大気試料の分析に必要な試薬等の物品費として40万円、研究打ち合わせのためのスリ・ジュアリ・サントサ教授の招聘のための旅費20万円、大気試料分析等の実験補助の大学院生のアルバイト費20万円を予定している。
|