Research Abstract |
本研究では,鱗食シクリッド(ミクロレピス)の捕食行動の左右性が,どのように獲得されたかを理解することを目的としている.鱗食魚の口部形態の非対称性は,遺伝形質で稚魚でも見られるものの,捕食行動の左右性の獲得過程は不明であった.そこでまず,様々な発達段階の鱗食魚(稚魚期~若魚期~成魚)をタンガニイカ湖で採集して胃内容分析を行った.分析の結果,標準体長35mm以上の個体は専ら鱗を摂食していた.つぎに,シクリッドの側線鱗の形状を精査して,その左右差から由来する体側を判定する方法を確立した.この方法を用いて,鱗食シクリッドが摂食していた被食魚の側線鱗の形状を計測して,シクリッドが被食魚のどちらの体側か襲撃したかという捕食行動の左右性を推定した.もし捕食行動の左右性が,遺伝的に決定されるのであれば,発達初期から片方の体側の鱗を摂食していると予想される.他方,行動の左右性が学習で獲得されるのであれば,発達初期は両体側の鱗を摂食しているが,成長とともに襲撃方向間の捕食成功率の差を学習し,片方の体側の鱗のみに偏るであろう.計測の結果,鱗を食べ始めた直後から口部形態に合った体側由来の鱗を主に摂食していたので,捕食行動の左右性は遺伝的な影響を受けていると示唆された.また,稚魚期から若魚期(40-70mm)では,口部形態とは逆体側の鱗を摂食していた個体も見られたが,体長の増加とともに口部形態と合う体側の鱗を摂食していた比率が有意に高まっていた.したがって,捕食の経験による学習で襲撃方向がさらに偏ると推定できる.これは,動物の利きの獲得における学習の効果を示唆する重要な結果であろう.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度,標本数の少なかった小サイズの個体(標準体長35mm以下)を中心にタンガニイカ湖で鱗食シクリッドを採集し,胃内容分析を行う.食性が異なるタンガニイカ湖産シクリッドを用いて,摂食行動を発現するうえでキイとなる後脳ニューロン系の形態や生理学的特性を種間比較する.また,さまざまの発達段階の標本を用いて神経系の発達過程を検討する.
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