2012 Fiscal Year Research-status Report
将来の計算機構としての可逆コンピューティングとその体系化
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24500017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森田 憲一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00093469)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 可逆計算機構 / 可逆セルオートマトン / 可逆論理素子 / 可逆論理回路 / 可逆チューリング機械 |
Research Abstract |
物理的な可逆性を反映した計算パラダイムである可逆コンピューティングは、将来、分子・原子レベルの物理現象を直接利用した計算機デバイスを開発する際に鍵となる考え方である。平成24年度は、可逆論理素子、可逆チューリング機械、可逆セルオートマトンなどの各計算モデルの能力を研究し、以下の成果を得た。 1.可逆論理素子による可逆計算機構の構成法: 4つの入出力記号をもつ2状態可逆論理素子の一種であるロータリー素子による可逆チューリング機械の構成法はすでにこれまでの研究で示されているが、本年度は、より単純な2記号2状態素子を2種類用いた新しい構成法を与えた。 2.可逆的かつ保存的なセルオートマトンの計算万能性: 可逆性とともに重要な物理的性質である保存性に相当する性質を併せ持つセルオートマトンが、かなり単純なものでも計算万能性を持ちうることを証明した。 3.記憶領域が限定された計算モデルにおける可逆性: 記憶領域がS(n) (nは入力長)に制限されたチューリング機械や、マルチヘッド有限オートマトン(記憶領域が log n のチューリング機械と等価)の計算能力が、可逆性制約を課しても下がらないことを示す簡潔な証明を与えた。 4.ブラウン運動的性質を有するシステムの計算能力: ブラウン運動に相当する性質を持つシステム、つまり計算過程が順方向だけでなく逆方向にも進みうるシステムは、可逆システムと密接に関係していることが過去に論じられている。ここではそのようなシステムを数学的に定式化し、計算能力や基本的性質を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の研究計画調書には平成24年度の研究計画として次の3つの研究項目を挙げた:(i)記憶つき可逆論理素子の万能性の解明と有用な素子の発見、(ii)計算万能な可逆システムの単純化、(iii)種々の可逆計算システムのモデルとその計算能力の解明。まず、(i)については3以上の記号数をもつ2状態素子がすべて万能になることを前年度までの研究で示したが、本年度は単独では非万能である2記号2状態素子を2種類用いると可逆チューリング機械が簡潔に構成でき、その意味で有用であることを示した。(ii)については可逆的かつ保存的なセルオートマトンで計算万能なものが4近傍96状態で構成できることを証明し、物理的保存性に相当する性質を有する単純なシステムがどのようなときに万能になりうるかの知見を与えた。(iii)については記憶領域が限定された計算モデルにおいては可逆性を有するものとそうでないものの計算能力が変わらないことを単純明快な方法で証明した。加えて、可逆性と密接に関係するブラウン運動的計算システムの諸性質を明らかにした。以上、解決すべき問題も種々残されてはいるが、それぞれの研究項目について順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
「11.現在までの達成度」に記載した研究項目(i)-(iii)については今後も継続して取り組む。(i)については2状態可逆論理素子すべてについてそれらが万能か非万能かを明らかにする。現在、4種類の2記号2状態素子の非万能性の証明だけが残されており、そのうちの3種類については証明のアウトラインができている。これらの証明を完成させるとともに、非万能であると推測される残る1種類の素子についての解明を目指す。(ii)については、可逆的かつ保存的なセルオートマトンで計算万能なものの近傍数(相互作用できるセルの個数)を4から3に減らせると推測されるので、この証明に取り組む。また、可逆セルオートマトン設計の別法である2階の可逆セルオートマトンの枠組みを用いて単純かつ計算万能なモデルの設計を試みる。(iii)については、チューリング機械における可逆性や決定性のみならず、対称性とよばれるブラウン運動的性質についても研究し、それらを有するモデルの性質や相互関係を体系的に研究する。また研究項目(i)-(iii)に加え、可逆コンピューティング理論全体の体系化を進める。特に、可逆論理素子や種々の可逆計算機モデルのそれぞれの性質や計算能力のみならず、それらの関係を明らかにする。そして2012年3月に出版した和文単行本「可逆計算」を基礎として、内容を大幅に増補した英文単行本の執筆を開始する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
可逆計算機構のシミュレーションや性質の検証などは現有のパーソナルコンピュータを使用して遂行する。従って、そのための消耗品費(プリンタ・インク、外付けハードディスク等)として約30,000円を使用する予定である。また、研究成果発表と情報収集のための国内および外国出張旅費を440,000円と、国際学会の参加登録費を30,000円見込んでいる。
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Research Products
(10 results)