2012 Fiscal Year Research-status Report
有形文化財の3DCG復元を目的とした材質劣化モデルの構築
Project/Area Number |
24500299
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
田中 法博 長野大学, 企業情報学部, 教授 (90387415)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | デジタルアーカイブ / 光反射モデル / コンピュータグラフィックス / 分光反射率 / 表面特性推定 / 画像計測 / 文化財復元 / CG再現 |
Research Abstract |
対象物体の表面特性(材質)を光反射モデルとして記述して,それに基づく物体表面の特性推定を開発し.そして,その推定情報に基づいたCG再現手法を開発したことが,本年度の研究実績で重要な点となる.本年度は,物体表面の劣化状態を知るために,マルチバンドカメラを用いて様々な照明方向や視線方向から「材質が既知」の物体の光反射特性を計測した.対象物体を分光的に調べることで物体表面に含まれる材質固有の特性を知ることができた.これらは主に国際会議で発表した(K. Mochizuki, N. Tanaka et. al. J. of CSAJ 2012 および K. Mochizuki and N. Tanaka et. al., Int. Conf. AIC 2012).物体表面の材質の特性が画像から推定できたことで,物体表面の劣化の状態を調べるため基本的な手法の一つが開発できた.本研究の成果では,こういった物体表面の反射特性推定(材質推定)手法は,一般的な木材や塗料のようなものだけでなく,たとえば人の肌のような複雑な反射特性を持つ物体へも応用が可能であることを示し,それをCGで再現できることを示した(N. Tanaka et. al. J. of CSAJ 2012 および N. Tanaka et. al., Int. Conf. AIC 2012).人の肌のような生態などにも応用できることがわかった.このことにより,より複雑な表面状態を持つ文化財へも提案手法が適用できる可能性を示すことができた. 現在は,さらに形状の劣化モデルを構築するために照度差ステレオ法を用いた物体表面の形状を画像から推定する手法を開発し,その成果を発表するために日本色彩学会全国大会での発表準備を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究の達成度は,当初の予定であった光反射モデルの開発状況と形状の劣化モデルの開発状況について評価する.当初計画していた物体表面の光反射計測系の開発は順調に進んでいる.これに伴いマルチバンドカメラを用いた物体表面の材質の特性推定手法の開発は,順調に研究が進んでおり実際に国際会議などで発表することができた.当初の予定では,分光画像計測のためのマルチバンドカメラは2013年度に開発予定であったが,2012年度に前倒しで開発を進めた.これにより当初の予定よりも早く物体表面の分光推定が可能となった.そして光反射に基づいた劣化モデルについても計測データは徐々に蓄積されているために2013年度中に最初の成果の発表が可能なレベルになると予想できる.さらに,当初の予定では,劣化加速機を用いた大掛かりな計測を行わない予定であったが,詳細に物体の劣化状態を調べるため,紫外線ランプを搭載した劣化加速器を使用して,塗料などの劣化状態を精密に計測している.こういった点から当初よりも精密な劣化モデルの構築が期待できるようになってきた. また,形状に関する劣化モデル構築は2013年度から本格的に進める予定であるが,その予備的な手法の開発を2012年度中に行うことができた. そのように技術開発の部分では当初の予定よりも研究が進んでいるが,実際に劣化した文化財に対する調査は,既にいくつかの博物館と共同計測を行うための調整を行っているにとどまっている.今後は実際の文化財の計測作業を進める必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
ここでは当初の予定通り,マルチバンドカメラを改良して,物体の劣化状態を精密に計測できるようにする.そこから,対象物体の劣化状態を精密に推定し,元の状態にCGで復元するための手法を開発する.しかし,これまでの研究から当初の予定になかった新たな2つの研究の方向性が見いだされた.一つは紫外線ランプを搭載した劣化加速装置を用いた精密な劣化状態の計測による物理的に詳細なモデル構築である.もう一つは,本研究では,様々な環境に置かれた「劣化した文化財」を画像計測する必要があるが,このときの照明環境が重要となることである.物体の劣化は微妙な分光反射率の変化に現れるが,これを精密に画像計測するためには,実環境の光源の分光分布や照明分布が精密に分からなければならないことがわかった.本研究の当初の予定では,実際の文化財を復元の対象とするため,様々なシーン中に置かれた文化財の計測には,この照明環境の問題は避けて通ることができない.そこで今後は,実シーンにおける照明環境の計測手法も併せて開発する必要性がでてきた.そこで実シーンにおける光源の分光分布と空間分布を画像計測するための手法を開発する. 次に,形状の劣化(欠損)モデルを試作する.画像からの物体の形状計測手法を開発することで傷などによって部分的に欠損した3次元形状の欠落情報の補間を行う.これは2012年度に画像からの形状計測手法を開発することができたので,それを発展させる. 以上2つに基づいて,既に2012年度までにいくつかの博物館や美術館と文化財計測についての計測を共同でするための話し合いが進んでいるため,実際に劣化した文化財の計測を進めていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
全体としては,当初の予定通り物体表面の反射特性を計測するための光反射計測系の開発やその実験に必要な計測材料購入のために研究経費を使用する.そして,ここで開発した手法を用いて,実際の文化財を計測するために現地調査のための旅費が必要となる. さらに,当初の予定に加えて,実際の文化財が置かれている照明環境を計測するための手法の開発が必要となった.そのため,実シーンの分光放射照度を計測するための計測器が新たに必要となる.このため分光放射照度計などの照明光源用の計測器やカメラレンズを購入する. これらの研究成果は,国内外の学会や学術論文で発表するため,研究成果発表のための経費が必要である. なお、前年度からの残額は、実際の文化財を現地で調査し、計測を集中的に行うための旅費等に使用する予定である。
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Research Products
(14 results)