2013 Fiscal Year Research-status Report
有形文化財の3DCG復元を目的とした材質劣化モデルの構築
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24500299
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
田中 法博 長野大学, 企業情報学部, 教授 (90387415)
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Keywords | デジタルアーカイブ / 材質の劣化 / 形状推定 / コンピュータグラフィックス / 光反射モデル / 表面特性推定 / 画像計測 / 文化財復元 |
Research Abstract |
本年度は大きく4つの成果が得られた.1つ目は本研究で開発したマルチバンドシステムによる物体表面の反射特性計測法の開発について成果が得られ,それをデジタルアーカイブに応用するための技術開発が進展したことである.2つ目は物体表面の光反射モデルを改良し,物体の材質の記述方法について新たな知見が得られたことである.ここでは主に紫外線による材質劣化状態,合金の反射特性の記述に応用を試みている.また,この成果は無機物だけでなく人の肌といった生体にも適用が可能であることがわかった.ここで得られた成果は国際会議(IASDR2013)やいくつかの国内学会で発表することができた.3つ目は,シーンの照明環境の計測技術の発展である.多くの有形文化財は屋外など様々な条件の場所に存在するため,昨年度までの研究で暗室のような安定した計測環境が望めないことがわかった.そこで,分光画像計測に基づいたシーン全体の照明環境を計測するための技術開発を行った.これに関連する技術として物体の複雑な相互反射に関する色再現技術を開発した. 4つ目の成果は,形状計測に関するところで提案手法の一部を用いて実際の文化財(工芸作品)の形状計測や推定ができた点である.特に金属物体をレーザー光で計測した場合には欠損部分が出てくるが,その欠損部分の形状補完などが有効に行えている. 以上の研究成果を踏まえて,東京国立近代美術館や国立近代美術館の研究者の協力を得て,東京国立近代美術館に所蔵されている明治期の工芸作品「鈴木長吉作 十二の鷹」の3次元計測や材質の計測に取り組むことができた.ここで得られた知見は,既にいくつかの国内学会で発表することができた.まだ,改善すべき課題は数多く存在するが,このように実際の有形文化財に対して本研究成果を適用できたことは本年度の大きな成果の一つと考えることができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究について,以下の点から当初の計画以上に研究が進展していると判断した. 本年度は,先に示したとおり開発している技術が徐々に完成してきており,関連する研究が学会誌に2つの学術論文として採択され,また,国際会議でも3件の研究成果を発表することができた.特に,マルチバンドカメラを用いた物体表面の材質推定技術がThe Bulletin of JSSDに採択され,文化財計測に重要となる分光ベースのシーン照明計測(全方位計測)に関して画像電子学会誌に論文が採択された.この他にも現在,本テーマに関連する研究について2本の学会誌学術論文を投稿中であり,さらに投稿準備中の論文も1本ある.このように,これまでの研究の具体的な成果が出てきている. また,当初予定していた方法に加えて「劣化加速器」を導入することで材質の劣化状態を分光反射率に基づいて定量的に調べることができた.このことから材質の劣化モデルの構築のために,紫外線による材質劣化に関する重要なデータも獲得できた.そして,新たに合金の光反射モデルの構築を行ったことで,朧銀といった古くからある彫金の材質について分析やCG再現が可能となった.さらに,東京国立近代美術館に所蔵されている明治期の工芸作品「鈴木長吉作 十二の鷹」といった具体的な文化財を対象に本研究の成果を適用し応用することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までは先に述べたような様々な技術を開発したが,今後はそれらを統合して本研究の目標である実際に劣化した文化財の劣化状態の調査や復元に応用していきたい.具体的な目標としては2つある. 1つ目として,様々な対象の材質の光反射モデル構築を進めたい.現在は,明治期の工芸作品「鈴木長吉作 十二の鷹」の計測に挑んでいるが,表面は経年で酸化していたり,変色していたりするので,まずは制作当時の状況をCGで再現したいと考えている. しかし,「十二の鷹」については,その材質について不明な点が多く,材料などに関する詳細な資料が残っていないため,より詳細な計測と分析が必要となっている.この物体の材質は,朧銀であったり,表面に漆が塗布してあったりと多様である.次年度は,こういった材質の分析を行い,より高精度なモデル構築を行う. 2つ目として計測環境による精度低下の問題解決である.当初の研究計画には無かったが,昨年度,新たに解決しなければならない課題が見つかった.特に劣化状態が著しい文化財は,複雑な自然環境等の計測に不向きなシーン内に置かれており,これが計測精度を著しく低下させることがわかった.暗室環境とは異なり,この環境に置かれている文化財は,複雑な照明条件等により計測が極めて難しい.特に災害によって傷んだ文化財は,その設置されている場所そのものが計測環境としても困難な環境となっている場合が多いため,計測精度を向上させるための対策が必要である.本年度は,その問題に対して全方位照明環境を計測する技術を開発したが,実際に,それを文化財計測の精度向上に利用できる段階までは達していない.次年度は,ここで開発した技術を実際の文化財計測に応用するための技術の開発も行いたい.ただし,この問題は,様々な複雑な問題の集合体でもあるため解決は容易ではない.そのため,次年度は対象や課題を絞り込んだ上で問題の解決を進めたい.
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Research Products
(19 results)