2012 Fiscal Year Research-status Report
日本語話者好みの<主観的把握>に基づく表現性と<相同性>―認知類型論的考察―
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24500329
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
守屋 三千代 創価大学, 文学部, 教授 (30230163)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池上 嘉彦 昭和女子大学, 文学研究科, 教授 (90012327)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 事態把握 / 主観的把握 / 見立て / 相同性 / 認知類型論 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本語話者の<事態把握>の傾向、すなわち事態を主観的―主客合一的―に把握し、それに応じて独話的に語りだす傾向が、いかに文法や語彙などの言語形式に現れ、かつ互いに並行性が見られるか、また翻訳を通じて異なる<事態把握>の傾向のある言語話者の場合とどのような表現上の相違があるかを明らかにすることと、日本語話者の<主観的把握>の傾向から、日本語と文化一般について、どのような<相同性>が見られるかについて、日本古来のキーワードである<見立て>を軸として、考察を進めるものである。 前者については、研究発表・講演では守屋2012.5,2012.8、池上2012.4,2012.8,2012.10a,2013.1,2013.2, があり、論文では守屋2012.6,2012.6,2012.8,2013.2,守屋・池上2012.6,池上2012.11,がある。これらにおいて<事態把握>に基づく言語形式間の平行性を「語順・モダリティ・複合語」などを例に捉えるとともに、翻訳をめぐる<事態把握>の表現性の特徴についても考察を進めた。後者については、研究発表では守屋・池上2012.9,守屋2012.12,2013.3,池上2012.9,2012.10b,2013.2,2013.3、論文では守屋2013.3が挙げられ、いずれも<見立て>を軸とした、言語と文化の相同性をより明らかにするとともに、<見立て>とは何かという課題をより深い考察を進めることができたと考える。 本研究は、国内外の研究者からの協力を得て数度にわたり研究会を開き、研究を進めることで、今後の課題を具体的に捉えることが可能となったとともに、国内外での<事態把握>と<見立て>、および言語と文化の<相同性>に関するテーマの研究上の有効性を相当程度に主張することができたものとと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の研究実施計画の概要は、1.日本語話者の「語り」と「読み」の検証、2.「語り」と「読み」の認知類型論的研究、3.言語形式間の平行性の研究、4.<相同性>の検証に向けた「見立て」の概念の把握、5.言語と<相同性>をもつ文化の研究に向けた準備、の5点である。 上記の通り、1については、翻訳をめぐる表現性の問題として研究を進めることができた。2については、海外の研究協力者とともに進めてきたが、未だ十分な聞き取り調査などを進めることができずにいる。ただし、海外での発表の機会を利用して、ほぼ<事態把握>と<相同性>および<見立て>が相関を見せることがわかってきた。3については、主たる相関が見える語順、モダリティ、複合動詞を例にあげて、必要に応じて中国語や英語と対照しながら、具体的な研究を進めることができた。4については、相当程度の研究を進めることができ、一年の間に<見立て>の概要をめぐる研究発表、日本の<見立て>の特異性の研究に基づく講演、および論文の執筆を進めながら、考察を深め、さらなる課題を明らかにすることができた。5については、限られた文化に留まり、どこまでを今後射程に置くことが可能か、検討が要することがわかった。現段階では、言語と和歌・連歌・連句・小説などの文芸、茶道および道具と和菓子などを中心に考察を進めているが、今後は建築や庭園、演劇なども視野に入れながら、考察を進める必要がある。特に、<見立て>が視覚文化として成熟する江戸期についてより積極的に捉えていくこと、文化間同士の並行性を見ていくことも、今後の課題であることがわかった。 以上より、全ての分野にわたり網羅的に研究を進めてきたとは言い難いものの、当初の目的をほぼ満たして研究を進めているとともに、最初には見えなかった今後の課題が、より明確に見えてきたことから、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度の実施計画は、1.<見立て>の観点を加えた「語り」と「読み」の研究、2.<見立て>のより統一的な研究の展開、3.<相同性>の研究対象の決定、4.言語と文化の<相同性>の研究の本格化、5.認知類型論に向けた準備、の5点である。 このうち、1,2については、準備段階として24年度に一定程度の考察を進めることができたので、今後はこれらの成果を基に、さらに研究を進めたい。ただし、<見立て>について、全てのジャンルを視野に入れてきたわけではなく、ジャンルによって<見立て>の在り様も異なる点等については未確認のことが多く、課題が多い。また、創作者の視点から捉えた<見立て>については、具体的な考察を進めるには至っていない。日本語は確かに聞き手責任的であり、文芸も空間芸術も見る側の責任に委ねられるところが大きいが、<主観的把握>に基づいて、創作する側の<見立て>を捉えることは不可欠である。それとともに、聞き手や作品の受け手がいかに創作者の主観的な<見立て>を理解するかという、聞き手責任的な観点を考慮に入れると、<見立て>が協同的な認知の営みであることが見え、この点をさらに考察を深める必要がある。さらに、視覚分野の<見立て>が成熟する江戸期の<見立て>についても、積極的に捉えていく必要があることは言うまでもあるまい。同時に、絵画と演劇、文芸など、異なる文化間の並行性というテーマも、今後は考察を進めていく必要があろう。 以上の課題をふまえつつ、日本語話者の<事態把握>の傾向に基づく日本語と日本文化の<相同性>、および言語形式間や文化間の並行性について考察を進めていくとともに、<見立て>が果たして日本語・日本文化の独自性を示すものか、あるいは他言語話者と類型論的な分布を示すものか、海外の研究者の協力を得て調査・研究を進めながら、認知類型論的な観点からさらなる検証を試みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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