2012 Fiscal Year Research-status Report
超離散時空間解析と大規模配列解析の融合による遺伝子転写原理の解明
Project/Area Number |
24500360
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大田 佳宏 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (80436592)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井原 茂男 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (30345136)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝子 / 転写 / 超離散系 / シミュレーション |
Research Abstract |
本研究課題では、遺伝子の転写原理を解明するため転写メカニズムの時空間数理解析に関する研究を行っている。当該年度の研究成果としては、ヒト細胞を用いたRNAPII (RNA polymerase II) 実体の運動情報・各種タンパク質結合情報・エピジェネティック修飾情報の大規模データ数理解析の研究を行った。 具体的には、タイリングアレイなどを用いた実験において、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECのTNF刺激におけるRNAPII実体の運動情報を取得した。これまでの我々の研究では、時間分解能7.5分間隔で細胞実験を行っていたが、本研究課題ではより高い時間分解能として3分間隔での転写におけるRNAデータの取得を行った。 さらに、転写ダイナミクスを制御しその運動にも影響を与える因子として、各種タンパク質結合情報とエピジェネティック修飾情報も取得した。具体的な結合タンパク質としては、CTCF/Cohesin, HNF4A, GATA2などの結合データを取得した。エピジェネティック修飾情報に関しては、H3K4me3, H4K36me3などの修飾情報のデータを取得した。 これらの細胞実験のデータをもとに、データマイニングの技術を応用し、転写の運動・修飾情報を染色体上の数値データとして数理解析を行うプログラムを開発した。本技術によって、細胞のRNAPII実体の運動情報・各種タンパク質結合情報・エピジェネティック修飾情報を、染色体上に1塩基レベルの高精度な空間分解能として取得することが可能となった。例えば、エクソン・イントロン領域ごとの断片配列スコアを計算し、転写において重要な役割を果たすスプライシングバリアント情報を自動抽出するなど、大規模データからの高度な時空間数理解析も可能とした。また、FOS, ICAM, VCAM遺伝子などの特に重要と考えられる遺伝子についてはより詳細な転写解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の達成については、大きく分けて以下の2点の研究成果の達成度により点検ができる。(1)タイリングアレイなどを用いた細胞実験によって、RNAPII (RNA polymerase II) 実体の運動情報、各種タンパク質結合情報、エピジェネティック修飾情報を取得。(2)得られた細胞実験データをもとにデータマイニングの技術を応用して、染色体上の数値データの数理解析を行うプログラムの研究開発。 「研究実績の概要」でも述べたように、上記の2点の研究成果は交付申請書の予定通り達成されており、当初の「研究の目的」は概ね達成されていると言える。 また並行して、数理科学に関する書籍を用いて数理解析モデルの習得を進めてきたため、次年度以降の計画となっている「遺伝子転写におけるRNAPII実体の粒子動態モデリングと超離散シミュレーション」への応用の準備も行うことができた。 さらに、これらの研究成果に関連して、論文誌への論文発表と研究会での招待公演も行い、広く社会・国民に研究成果の発信も行った。 これらの理由から、「研究の目的」の達成度については、自己点検により「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題では、「研究実績の概要」において記述したヒト細胞を用いたRNAPII (RNA polymerase II) 実体の運動情報・各種タンパク質結合情報・エピジェネティック修飾情報の大規模データ数理解析の結果を応用して、遺伝子の転写におけるRNAPIIダイナミクスの粒子動態モデリングと、その超離散シミュレーションを行う予定である。 本モデリングとシミュレーションでは、RNAPIIの速度変化、停止、バックトラック、相互作用などの、詳細なダイナミクスを再現するため、セルオートマトン(CA)モデルをベースに複数RNAPIIが相互作用をしながら移動していく蓄積排他モデルを改良して独自のCAモデルを提唱する。 具体的には、取得した実験データの数理解析結果から転写運動の障害となりうる各種タンパク質の時空間情報を抽出し、そこで得られた情報をもとに独自CAモデルを構築して、短い遺伝子に特徴的なRNAPII粒子動態の超離散渋滞モデルに関する研究を行う。 さらに、転写の際の染色体3次元構造変化の実験結果を用いて、クロマチン相互作用など染色体3次元構造の変化によるRNAPII転写運動のモデル化の研究も行う。ここでは、2次元超離散CAを用いて、染色体の物理構造が変化した際のRNAPII運動への影響のモデル化とシミュレーションを行う。 本研究を実施するために使用する研究施設・設備は、数理解析・シミュレーションについては、代表者の所属する東京大学大学院数理科学研究科において行い、細胞実験データの取得に関しては、研究分担者の所属する東京大学先端科学技術研究センターとする。この数理科学と生物実験の融合によって本研究課題を効率的に促進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度における本研究課題では、「今後の研究の推進方策」にも述べた通り、遺伝子転写におけるRNAPII実体の粒子動態モデリングと超離散シミュレーションの研究開発を推進する。 本目的達成のため、超離散シミュレーションプログラム開発用の計算機、数理解析用並びに細胞実験データ保存用の大容量データ記録装置、開発用ソフトウェアを導入する必要がある。そこで、分散処理用計算機、高速記憶装置、プログラム開発用ソフトウェアなどを購入するために研究費を使用する計画をしている。 また、「次年度使用額」にあたる研究費については、平成24年度に行った細胞実験データの数理解析結果のバックアップ用大容量データ記録装置の納入が平成24年度に間に合わなかったため、この記録装置の納入を早期に行う予定である。 さらに、本研究で得られた最新の研究成果を、論文誌や国際会議において広く社会・国民に研究成果を発信するため、成果発表の費用を使用する計画である。
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Research Products
(4 results)