2013 Fiscal Year Research-status Report
生体分子内の水分子機能を考慮した生体分子間相互作用の解析手法の開発と応用
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24500363
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 講師 (20361818)
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Keywords | 大規模量子化学計算 / 分子動力学シミュレーション / 抗体 / 糖鎖 / 分子間相互作用 / 生体内水分子 / HIV |
Research Abstract |
研究計画「生体分子内水分子の糖結合タンパク質における機能の解明」では,HIV-1糖鎖認識ヒト2G12抗体-リガンド複合体(PDB:1OP5)について,分子動力学計算および電子相関を考慮した大規模量子化学計算によるシミュレーションを行い,抗体の糖鎖リガンド(Man9GlcNAc2)認識において主要な役割を担うリガンド内部位や,リガンドの特徴的な枝分かれ構造の重要性を示し,投稿論文として発表した(Chem. Phys. Lett. 2013, 578, 144). また,2G12抗体が本来認識するD-マンノースよりも,D-フルクトースにより強く結合する実験結果について,この結合能の違いの要因を解明する研究を前年度に引き続き行った.各リガンドと2G12抗体との複合体の結晶構造 (PDB:1OP3, 3OAY)について,糖鎖-抗体間の相互作用を定量的に解析し,親和性の違いを比較考察した.PCM法による溶媒効果を取り込んだ大規模量子化学計算と分子動力学計算から自由エネルギーを見積もったところ,実験結果を再現できる事が明らかになり,結果を投稿論文としてまとめた(Comp. Biol. Chem. 2014, 49, 36). さらに,生体内水分子のリガンドー2G12抗体複合体のダイナミクスへの関与を,分子動力学シミュレーションにより詳細に解析した.D-マンノースの場合とD-フルクトースの場合では大きく異なり,それが両者の結合能の違いを引き起こすことが示唆された.得られた結果を,国際会議(ISTCP-VIII)及び日本化学会年会で発表した. 上記の2G12抗体に関する研究の他に,シアル酸含有糖鎖を特異的に認識する糖結合タンパク質であるレクチン(Siglec-7)について,レクチンーリガンド間の分子間相互作用に関して,上記と同様のシミュレーションによって解析した結果を投稿論文として発表した(J. Theor. Comp. Chem. 2013, 12(7), 1350060-1)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の目標である「生体分子内水分子の糖結合タンパク質における機能の解明」を,限られた計算資源を有効活用して積極的に進め,得られた結果を3つの投稿論文として発表することができたため,おおむね順調に進行していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で,生体内水分子が抗体のリガンド認識に顕著に寄与していることが明らかになりつつある.本年度は,2G12糖結合抗体及びその数種のリガンドの複合体を研究対象とし,開発中の生体分子内の水分子配置予測プログラムで,水分子の情報が不足している糖結合タンパク質の結晶構造に水分子を補完した構造を作成し,水分子の糖タンパク質の機能に与える影響を調べる.水分子を配置させた抗体―リガンド複合体に対して,分子動力学計算を行い,各スナップショットの構造について,大規模量子化学計算でリガンドとタンパク質間の相互作用解析を行う.水を考慮しない場合の糖タンパク質での相互作用エネルギー値と,考慮した場合とを,網羅的に比較し,水分子の有無がタンパク質全体に与える影響を解析する. 前年度に購入予定であった並列計算機は,大規模量子化学計算中に電源が落ちる現象が判明し,購入できなかった.前年度末にその原因(主に計算中にメモリが大幅に増減することによる電源の停止)と,その解決策が判明した.現在,計算機を発注し,近日中に納入予定であるので,それを用いて,上記の研究を精力的に進めていく.得られる結果をまとめ,日本糖質学会年会及び日本化学会年会で発表すると共に,投稿論文としても発表する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に購入予定であった並列計算機は,大規模量子化学計算中に電源が落ちる現象が見つかり,購入できなかった.前年度末にそれが,CPU・メモリ・電源間の相性と,計算中にメモリが大幅に増減することに起因することが判明したため,当初購入を計画していたCPUを変更し,更にバックアップ電源を追加搭載させた機種(HPC5000-XIGPU4TS-KPL)を購入する.既に業者に依頼済みで,現在最終動作確認中であり,近日中に入手予定である.本年度の研究対象は,6000原子程度の2G12抗体―リガンド複合体である.購入する並列計算機を使い,抗体―リガンド間の相互作用解析を大規模量子化学計算によって網羅的に行う予定である. バックアップ電源を搭載した並列計算機(Linuxシステムインテグレーションパック) HPC5000-Z800を購入する.
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