2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24500368
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中尾 光之 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (20172265)
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Keywords | 視交叉上核 / 位相振動子 / フィードバック / 同期 |
Research Abstract |
ヒトの概日リズムは行動学的レベルでは視交叉上核(SCN)由来の振動体と非SCN振動体の2つの振動体からなっており、両振動体間の不連続性な相互作用が実験的に明らかにされている。我々は、その原因がSCN振動体の一部が(非SCN振動体を含む)非光同調機構からの フィードバックにより適応的に引き込まれている為だと予測した。本研究では、位相振動子結合系を用いて、フィードバック機構によって、振動子間の結合あるいは応答性が適応的に調節され日長を反映した不均一な同期集団(Honma et al., 2007)が形成されるかどうかを確かめた。前者を結合調節モデル、後者を周期調節モデルと呼ぶ。この内、結合調節モデルについては、フィードバック的に振動子間の結合が可塑的に変化する学習則を導入した際には必要な結合強度パターンが形成されにくいことを前年度に示した。一方、周期調節モデルでは、振動子間の結合強度と周期変化のバランスで不均一な同期集団が形成されることを明らかにした。しかしながら、実際には動物は明期に維持される光強度を全て受容しているのではなく、極端な場合、明期の始まりと終わりの短い光パルスのみで同調が可能なことが実験的に示されている(スケルトンパルス)。現状の周期調節機構を備えた振動子ネットワークではスケルトンパルスに対して不均一な同期集団を形成することはない。そこで、このような多様な光受容条件下でも同調を実現する条件を周期調節機構の枠組みの中で探った。それによれば、スケルトンのような間欠的な入力に対しても連続的な周期調節を可能とする応答関数が必要であることが分かった。今後は、この周期調節機構を実現し、SCN振動子ネットワークにおける不均一同期集団の形成を目指す。また、分子レベルの縮約された時計機構モデルに細胞内シグナル伝達系、ギャップ結合などを導入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、結合調節モデルにおける学習則を探索すると共に、周期調節モデルにおける周期調節の可能な分子機構を分子生物学的な知見を参考にして探索する。また、ペースメーカ細胞の縮約モデルを構築することが目標であった。具体的には、位相振動子結合系を用いて、振動子間の結合あるいは応答性が適応的に調節され日長を反映した不均一な同期集団(Honma et al., 2007)が形成されるかどうかを調べた。結合が可塑的に変化する結合調節モデルでは学習に関わらない振動子集団が存在することにより、自由な位相関係で同期する振動子集団が形成されることが分かった。これは、フィードバックによる学習で、不均一な同期集団が広い位相差にわたって形成されることを意味しており、生物時計機構を離れて一般的な意義を持つ成果である。一方、周期調節モデルでは、スケルトンパルスのような多様な明暗条件下で不均一な同期振動集団が形成されるためには、明暗パターンに拘わらず連続的な振動周期が生成される必要があることが分かった。この条件の具体的実現は今後の課題であるが、ボトムアップの縮約モデルを作成する上で重要な知見である。ペースメーカ細胞の縮約モデルを作成したが、その縮約に以上の知見を組込む作業が新たに加わった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)結合調節モデルにおいては学習を行わないペースメーカ集団を仮定して不均一な同期集団の形成をシミュレーションする。 (2)周期調節モデルにおいては、多様な明暗条件下で連続的な周期生成が可能な条件を解析的に求める。それをペースメーカ細胞の縮約モデルに導入する。 (3)ペースメーカ細胞の縮約モデルをギャップ結合、シナプス、ペプタイドの拡散で結合し、SCN集合振動体モデルを構成する(ボトムアップ縮約過程)。 (4)SCN振動体がフィードバックにより不均一な同期集団を形成するようにペースメーカ細胞モデル間の結合形態をチューニングする(トップダウン遡行過程)。以上のような縮約と遡行の戦略により、行動レベルの振動体系のダイナミクスを持ち、且つ、分子レベルの振動メカニズムを踏襲したSCNのマルチスケールモデル化を実現する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)成果発表を行う予定であった国際会議の開催が日本国内であった。(2)定型の大規模シミュレーションを頻回に行う地点までは至らなかった。(3)研究成果を論文誌上で発表するまでには至らなかった。 (1)研究成果を海外に向けて積極的に発表する。(2)大規模シミュレーションを行ってモデル構造と時空間ダイナミクスの間の系統的な関係を明らかにする。(3)研究成果を国際学術論文誌上で発表する。
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