2012 Fiscal Year Research-status Report
発現変動情報を元にしたショウジョウバエ変異体解析による嗅覚記憶制御分子機構の解明
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24500376
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 智史 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (10463902)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 嗅覚記憶 |
Research Abstract |
キノコ体における発現解析を元に変異体の作製と解析を進めた結果、複数の遺伝子(pde1c, rgk1など)について記憶形成との関連を見いだした。Rgk1に対する抗体を作成し、成虫脳におけるRgk1の発現パターンを調べたところ、キノコ体で特異的に発現していることを確認した。さらに詳しく調べたところ、3つ存在するキノコ体subsetのうち2つのsubsetでRgk1が排他的に発現していることを確認した。キノコ体subsetは嗅覚記憶形成においてそれぞれ異なる働きをもつと報告されており、Rgk1が嗅覚形成の特定の過程に働くことを予想させる。トランスポゾンの転移誘導に伴って低確率で近傍配列が欠損する現象を利用しrgk1欠損変異体を作成した。この欠損体は2時間記憶のスコアが野生型に比べて顕著に低いことがわかった。嗅覚記憶を経時的に計測した忘却線を野生型と比較した結果欠損体は獲得した記憶を失いやすい(忘れやすい)ことがわかった。このことからrgk1は記憶の維持に必要と考えられる。rgk1を特異的にターゲットするmiRNAを作成し、Gal4/Gal80tsシステムを用いて成虫特異的にrgk1機能を阻害したところ、欠損体と同様の記憶阻害が見られた。したがってrgk1は成虫キノコ体で働き、嗅覚記憶の維持に重要な働きを持つことが示唆される。 キノコ体における発現解析で同定したpde1c遺伝子についても変異体解析を行ったところ、pde1cの発現が低下した変異体が短期・中期記憶の異常を示すことがわかった。pde1cはcAMPなどの制御に関わるphosphodiesterase(PDE)の一つをコードする。cAMP経路は記憶形成において中心的な役割を持つと考えられていることから、pde1cの解析により、記憶形成過程でのcAMP制御機構について新たな知見が得られると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、脳領域を絞って発現解析をすることでこれまでに同定されていない新規遺伝子の発見を目標とした。RNA-seqの実験データを元に定量PCRやin situ hybridizationによる発現の詳しい解析を行い、変異体解析を行った。その結果、キノコ体で特異的に発現するrgk1の変異体において、記憶形成過程の特定のステップに異常が見られることを見いだした。嗅覚中期記憶(2時間記憶)については、キノコ体を中心とした神経ネットワークが良く研究されている。一方で基盤となる分子メカニズムについては知見が限られており、rgk1と相同性の高いほ乳類ホモログが神経活動をmodulateするという報告があることから、獲得した記憶を数時間の単位で保持する神経活動調節機構を明らかにする上で、rgk1は重要な足がかりとなる。いくつかの詳細な解析を進め、miRNAによる阻害実験によりrgk1は神経の発生過程ではなく神経機能に必要であることを明らかにした。また抗体を作成しRgk1の発現パターン、細胞内局在を明らかにした。これらの結果を踏まえ、rgk1と相互作用する因子の特定作業を始めており、記憶形成・維持を担う未知の機構について解明が進むと期待される。rgk1の刺激依存的な発現変動については使用可能な抗体が出来たため、次年度に詳しい解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにrgk1について明らかにした知見から、rgk1はキノコ体で働き、記憶形成過程の特定のステップ(維持過程)に働いていることが示唆された。rgk1についてはこれまでに記憶あるいは神経機能との関連は報告されていない。そこで、rgk1の具体的な機能を明らかにすることを次の目標とする。rgk1はほ乳類REM family と相同性を示す。REM familyについてはCalcium channelを介して神経活動を制御するという報告がある。そこでCalcium channelを中心に、Calcium signalingや既知の記憶因子(cAMP pathway関連)を含めて遺伝学的な相互作用を探索し、rgk1機能に関する知見を得ることを目指す。すでに、preliminaryであるが、pde1cとの相互作用を検出している。今後は特に、rgk1とこのPDE因子がどのように働くのか(カルシウムシグナルとの関連などを含め)を研究の一つの中心とする。また、RNA-seqの結果によるとrgk1は繰り返し嗅覚条件付け後に発現上昇することから、Rgk1抗体を用いることにより、刺激依存的なrgk1の発現調節や細胞内局在変化について詳しい解析を行う。rgk1の強制発現体を作製し、キノコ体における必要性の確認実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
嗅覚記憶実験用の試薬を購入する(匂い物質)。解析用のハエを培養するためのエサを購入する。rgk1の強制発現実験系を作製するため、トランスジェニック変異体作製に必要な試薬を購入する(酵素など)他、インジェクションとセレクションを外注する。rgk1やpde1cの遺伝学的パートナーを探索するために変異系統を国内海外から取り寄せる。発現解析に必要な試薬を購入する(抗体染色関連試薬、定量PCR関連試薬)。研究成果を国内学会で発表するため旅費を使用する。
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Research Products
(4 results)