2013 Fiscal Year Research-status Report
発現変動情報を元にしたショウジョウバエ変異体解析による嗅覚記憶制御分子機構の解明
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24500376
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 智史 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (10463902)
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Keywords | ショウジョウバエ / 記憶 / 嗅覚記憶 / 遺伝子 / small GTPase |
Research Abstract |
当研究室で行ったRNA-seqの結果に基づき、嗅覚記憶センターであるmushroom body (MB)で特異的に発現するRgk1の機能解析を昨年度に引き続き行った。主に下記3方向の研究によりrgk1が成虫期MB神経細胞で働き、正常な嗅覚記憶形成に必須であることを明らかにした。 ①Rgk1タンパクに対する特異的な抗体を用いた組織染色実験により、Rgk1がMBの一部の細胞群で非常に特異的に発現していることがわかった。 ②rgk1遺伝子に対するmiRNAを用いた時期組織特異的遺伝子阻害実験により、rgk1遺伝子が記憶形成時にMB神経細胞で必要であることがわかった。 ③外来性Rgk1を時期組織特異的に強制発現させる実験により、MBでのRgk1強制発現で変異体の記憶異常を回復できることがわかった。 また変異体解析により、Rgk1がanesthesia resistant memory(ARM)に特異的に働くことを明らかにした。ARMはanesthesia-sensitive memory ASMとの対概念であり、時間持続性と耐性が比較的高い記憶成分である。ARM特異的な遺伝子Rgk1の同定は、ある一つの連合記憶に対してdurationの異なる複数の記憶が形成されるという概念の強力な裏付けであり、そのような機構を分子レベルで解明する中心的な手段になると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
rgk1はキノコ体で働き嗅覚記憶形成過程に必要であるという点の遺伝学的な証明をほぼ完了できた。さらにARM成分特異的であるという結果から、Rgk1は、記憶形成に関わる因子の中でも記憶を保持する時間(記憶のduration)を決める過程に関わる特徴的な因子であることを明らかにすることができた。常に変化する環境へ適応する上では、新たな行動パターンの獲得とともに、獲得した記憶をどの程度保持するのかということも同様に重要である。機能の特異性と発現パターンの特異性という点でrgk1はこれまでの”記憶遺伝子”の中でも際立っており、脳内でdurationの異なる記憶が形成される機構、さらにその生物学的意義を探求(なぜ忘れやすい記憶・忘れにくい記憶が生成されるのか、など)する上で重要な因子であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
Rgk1はほ乳類を含む種間で保存されたsmallGTPaseをコードしているが、現在のところどのような分子経路に作用しているのかに関してはっきりとした知見がまだ得られていない。これまでにcAMPを分解するphosphodiesteraseとの遺伝学的学的相互作用が検知されているため、cAMP経路との相互作用を中心にRgk1の機能をより詳細に解析する。 またGFP融合Rgk1により、MB神経内でのRgk1タンパクの局在を観察する。Rgk1の局在パターンや発現量が嗅覚刺激や嗅覚学習によってどう変わるのかを詳細に調べる。また既知の記憶因子や神経活動に必須な因子との局在なども観察しする。 Rgk1機能の有力な作業仮説として、Rgk1がphosphodiesteraseを介してcAMP経路を制御している可能性がある。この仮説の検証のため、ウェスタンブロットによるタンパク間相互作用の検出、forskolin等を用いたcAMP応答性へのRgk1の関与の検証などを行う。これら一連の実験により、MB神経細胞内における記憶形成過程でのRgk1の機能を分子レベルで明らかにすることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Rgk1が嗅覚記憶に必要であることが明らかにでき、Rgk1分子機能の解明が次のステップとなる。そのために、25年度(26年度にも引き続く)は行動アッセイを用いた遺伝学的な知見(どのような因子と関連しているか)の蓄積に集中し、この知見の上で26年度に、より詳細な生化学的解析を集中して行うこととした。具体的には、タグ付加タンパク発現系統の作成、タンパク間相互作用の検出系、タンパクの生化学的機能の検出系のための予算が必要となった。 タグ付加タンパク発現系統の作成費用として、インジェクション費用(transgenic animal作製費)10万円。 タンパク間相互作用の検出系として、タンパク精製用試薬8万円、ウェスタンブロット用試薬12万円。 タンパクの生化学的機能の検出系として、Cyclic AMP Assay Kit等11万円。
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Research Products
(3 results)