2013 Fiscal Year Research-status Report
光刺激操作を用いた内発性動作における基底核ー運動前野ネットワークの機能解析
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24500397
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
有村 奈利子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, 流動研究員 (20420375)
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Keywords | 神経科学 / 大脳基底核 / 神経回路 |
Research Abstract |
大脳基底核と運動前野は、動作決定から運動の準備実行まで、幅広い運動機能の制御に関与している。これら領域はループ回路を形成して密接に連携していると考えられるが、現状では、両領域の研究は独立してなされるものが多く、領域間の機能連関の実態は依然として不明である。私は、行動課題を遂行しているサルの基底核の出力部である淡蒼球と運動前野からニューロン活動を記録し、これらの間の機能連関を検討してきた。この課題では、左または右に到達するといった「動作概念」を指示として与えて、引き続き呈示された選択肢刺激にもとづいて「実際の動作」を決定、実行することができる。本年度は、上記研究成果をJournal of Neuroscience誌に報告した。本論文では、基底核の指示刺激に対しする反応は、腹側外側前頭前野のそれとほぼ同じタイミングで見られたことを報告した。このことは情報の階層性の点で、基底核が前頭前野と同じくらい早い働きを担うことを意味している。また、実際の動作に選択的に反応する神経活動の出現は、基底核と運動前野、前頭前野においてほとんど変化はなかった。対照的に、単純に行動を指示されて運動を決める場合は、基底核の活動は運動前野や前頭前野よりも優位に遅かった。従って動作概念を呈示された場合、実際の行動を決める過程には基底核は早い段階で関与していることが示唆された。さらに動作概念に選択的に反応する神経活動は、運動前野や背側外側前頭前野では比較的長い時間持続するのに対し、基底核や腹側外側前頭前野では、短時間のみ見られていた。これらの結果は基底核が動作概念を実際の運動に反映させる過程に関与し、個々の動作を決めるプロセスに重要であることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究内容をJournal of Neuroscience誌に掲載したため、達成度は高いと考える。ただし、25年度の研究計画の一つとして、サルに対する内発的行動を含む実験課題の訓練を挙げていたが研究施設の移動が原因となり、サルへの訓練が行われていないことが、達成度を低くした主たる原因である。作年度、大脳基底核―黒質の投射経路、線条体黒質路に投射異常のあるマウスを得た。本マウスでは姿勢保持異常や振戦等が見られており、このマウスを使った線条体黒質路の回路異常と神経活動異常と、疾患原因遺伝子の分子機能の解析も行った。具体的には、原因遺伝子の分子間相互作用を知るために、マウス脳抽出液中から免疫沈降法を用いて結合分子を単離し、液体クロマトグラフィーと質量分析によるショットガン解析を試みた。さらに、遺伝子発現部位を免疫組織学的に検討すした。特にGAD67-GFPやVglut-2-GFPなどのノックインマウスと交配し、興奮性、及び抑制性神経細胞における原因遺伝子の発現とその機能を検討した。光刺激を利用して基底核の機能の制御を行うために、オプトジェネティクスによる行動制御の系を立ち上げた点についても順調に研究が進展しており、以上の点を総合的に鑑み、研究は進展していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、大脳基底核―黒質の投射経路、線条体黒質路に投射異常のあるマウスを得た。このマウスは、パーキンソン病の前屈姿勢異常や振戦によく似た症状を示し、歩行や食事動作に影響が見られる。パーキンソン病の病理として黒質、青斑核の神経細胞脱落が報告されており、これらによる大脳基底核ひいては大脳皮質への入力異常が原因と考えられている。これらの症状について、基底核と大脳皮質の機能連関と分子メカニズムについては不明な点が多い。 本年度は、投射異常や神経活動の異常な興奮性の原因を特定することを目指し研究を進める。具体的には原因遺伝子の発現場所を胎生期から詳細に解析する。 また原因遺伝子をin utero electropolation法など用いて過剰発現、もしくは発現抑制を行い、神経発生から細胞移動、軸索の投射についてどの点に重要な機能異常が見られるか検討する。さらに昨年度の結合分子の探索により得られた結果を基に、機能異常に関与する分子の絞り込みを行う。これらの分子も同様に生体内で過剰発現、もしくは発現抑制を行い、機能的関連性を検討する。異常の見られた脳領域の特定の箇所において、オプトジェネティクスの技術を用いて、神経活動を変化させ、マウスの行動の変化を確認する。この実験において、行動課題依存的に神経活動が変化した神経細胞のある箇所に、光刺激により膜電位を変化させる光駆動性チャネル及びポンプ(チャネルロドプシン、ハロロドプシン)を発現させ、神経活動の抑制や増強を行う。これらの実験を行うことで、姿勢保持や振戦における基底核と大脳皮質の機能連関を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に申請した研究費の一部(約100万円)を26年度に繰り越ししました。上記の通り昨年1月に研究施設の移動を介したことにより、移動後の研究環境において26年度の研究計画に必要であるが現有環境にない機器及び試薬、消耗品がかなりあると判断し、来年度の研究予算を確保するために繰り越ししました。旅費の計上については、研究成果の内容について競争の激しい分野での発表になることが明らかになったため、25年度の発表を断念し、26年度に学会発表することに決め学会参加のための旅費を計上しました。 研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を計上しました。使用予定金額:200万円(使用予定内訳、実験動物30万円、消耗機器70万円、薬品20万円、免疫組織学的試薬50万円、旅費10万円、その他20万円)
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