2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞質脱アセチル化酵素の活性消失がもたらす情動障害とその分子メカニズムの探求
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24500453
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
川口 禎晴 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 発生障害学部, 主任研究員 (00450833)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | HDAC6 / 脱アセチル化酵素 / 抗うつ薬 |
Research Abstract |
HDAC6欠損がマウスに抗うつ様行動を誘発することについて、その分子メカニズムを明らかにするために脳におけるHDAC6の基質候補分子と考えられたCaMK2分子とピルビン酸脱水素酵素複合体分子(PDC1)に着目してHDAC6との関連を調べた。細胞内におけるHDAC6との分子間相互作用についてはPDC1にHDAC6との結合が観察されたがCaMK2については見られなかった。さらにPDC1を含むピルビン酸脱水素酵素複合体の形成に及ぼすHDAC6欠損の影響を検討したところ、HDAC6分子欠損においてもHDAC6酵素活性阻害剤存在下においても酵素複合体形成は正常であった。これらのことから、1)PDC1が本件のキープレーヤーであること、2)HDAC6はPDC1を含む酵素複合体の形成には影響しない、3)従って酵素複合体の活性に影響を及ぼすことが疑われたこと、4)CaMK2は本件とは関連がないこと、が明らかとなった。 この結果を受けて、HDAC6ノックアウトマウスの脳内縫線核(HDAC6が特に多く含まれる部位)のピルビン酸量を調べたところ、他の部位と比べて縫線核ではピルビン酸の蓄積が見いだされた。続いて、縫線核セロトニン神経細胞の機能不全を疑いセロトニン合成酵素Tph2の分子発現量を調べた結果、神経細胞の末端部分でTph2量の低下を見いだした。 以上の本年度の研究から、HDAC6ノックアウトマウスの脳内では縫線核セロトニン神経細胞のピルビン酸の蓄積を伴うエネルギー代謝異常が示唆され、その分子メカニズムとしてPDC1を含むピルビン酸脱水素酵素複合体の機能不全が考えられた。また縫線核セロトニン神経細胞では末端におけるセロトニン量の低下が示唆されたことから、末梢部位でのセロトニン伝達異常が起きている可能性が考えられた。この視点は、新しい作用メカニズムに基づく抗うつ薬の開発に期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本件のキープレーヤーとなる分子が絞り込めたことや、さらにはその分子が関与する生理現象の異常をHDAC6ノックアウトマウスの脳で実際に見いだせたことから、今後の研究の方向性を明確にすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
ピルビン酸の蓄積を伴うエネルギー代謝異常の分子メカニズムをPDC1分子およびその酵素複合体分子の機能異常から明らかにしていく。またこのようなエネルギー代謝異常が起こっている神経細胞でTph2の神経終末部位での発現低下を見いだした点について、エネルギー代謝異常との関連を明らかにするとともに、末端におけるセロトニン神経伝達の異常や投射先での神経活動の異常を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費については物品購入費に使用する。 また翌年度の研究費については本年度同様に試薬や器具やマウスの維持費など物品購入費、研究補助としてアルバイトを雇う人件費、学会参加を予定しているため旅費に使用する。
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