2013 Fiscal Year Research-status Report
未熟児低酸素性虚血性脳障害におけるミクログリアの生理機能の解明
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24500454
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Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
河内 全 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 研究員 (70322485)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細川 昌則 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 部長 (00127135)
千葉 陽一 香川大学, 医学部, 講師 (30372113)
島田 厚良 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 室長 (50311444)
榎戸 靖 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 室長 (90263326)
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Keywords | 低酸素性虚血性脳症 / モノアシルグリセロールリパーゼ / 炎症性サイトカイン / 貪食 |
Research Abstract |
モノアシルグリセロール分解酵素の一つモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)は、脳における主要なアラキドン酸(AA)等の産生酵素である。MAGLノックアウトマウスにLPSを投与した場合やAPPモデルマウスにおいてMAGL阻害剤を投与した場合にプロスタグランジン類の産生が組織レベルで抑制され、炎症を誘導しないことが示されていたが、グリア細胞におけるMAGLの機能は不明な点が多い。昨年度はラット低酸素性虚血性脳症(PVL)動物モデルにおいてLPS及び低酸素処理によりMAGLの発現が転写レベルで低下し、上記モデルを模した初代培養ミクログリアでもLPS及び低酸素処理により同様な変化が認められることを報告した。しかしながら、蛋白質レベルでは通常酸素濃度においてLPSによる発現の増加が見られた。この点についてMAGL安定発現BV-2細胞株を作製し、MAGLの発現機構を検討した結果、LPS処理によりMAGLは蛋白質レベルで安定化が見られ、MAGLはミクログリアにおいて炎症時に転写抑制が起こるがプロテアソームによる分解から免れることが示唆された。アストロサイト及びミクログリアにおいてMAGLの機能を阻害した場合に通常酸素濃度及び低酸素条件でLPS処理を施したが、IL6、TNFα等の炎症性サイトカインの発現誘導はコントロールと比較して差が見られなかった。またMAGLノックダウンミクログリア細胞では突起数が減少し、細胞形態が変化すると共にFcγレセプターを介した貪食能が低下した。以上の結果よりミクログリア内在性のMAGLは貪食能を促進するが、LPS依存的な炎症性サイトカインの誘導には関与しないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度前半はMAGLの生理機能を中心に解析を行ってきたが、今回はもう一つのモノアシルグリセロール分解酵素ABHD12(abhydrolase domain containing protein 12)のPVLとの関連性について調べている。ミクログリアに多く局在するABHD12はPHARCと呼ばれる神経変性疾患の原因遺伝子であるが、ノックアウトマウスを用いた解析によりphosphatidylserine(PS)及びlysophosphatidylserine(LPS)の分解に関与することが昨年報告された。ミクログリアを単離培養してレンチウィルス発現系によりABHD12をノックダウンすると細胞死が誘導されることから細胞自律的な生存シグナルにABHD12が関与している可能性が考えられた。またFLAG-ABHD12をBV2ミクログリア細胞株に発現させるとCSF1(colony stimulating factor1)依存的な細胞増殖が抑制された。PSはAkt等を介した細胞増殖に重要であることが最近示されており、ABHD12がCSF1の機能に関わることを示す。またCSF1レセプター(CSF1R)はミクログリアに発現するが、遺伝性白質脳症(HDLS)の原因遺伝子であることが最近報告され、CSF1Rがオリゴデンドロサイトの分化や生存維持に重要であることが推察される。CSF1シグナルによりlipoteichoic acid(LTA)存在下或いは低酸素処理によりABHD12の局在や機能がどのように変化し、またオリゴデンドロサイトとの共培養によりどのような効果が生じるかについて現在解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
CSF1Rは脳発生時のミクログリアの分化や増殖に必須であり、また虚血時の活性化にも重要であることが知られているが、CSF1Rがオリゴデンドロサイトへの生存や分化に及ぼす作用機序については明らかにされていない。最近CSF1R自身でなく、下流のシグナル経路の一部を構成するDAP12等の分子の変異でもオリゴデンドロサイトの細胞死に関わる経路が報告されているが、ミクログリアの増殖や機能に重要な脂質シグナルとどのようにクロストークするかが不明である。またCSF1を投与することにより虚血時の神経細胞死が抑制されることから、CSF1シグナルが虚血時の病態の進行に重要であることが示唆されている。PVLの発症時において発達期のミクログリアの性質の変化がオリゴデンドロサイトの分化や細胞死にどのように関わるかについて明らかにするために、まず頸動脈結紮・低酸素負荷やlysolecithin処理によるPVL動物モデルを用いてCSF1RやPSの発現や局在の変化がどのように推移するかをミクログリアの形質マーカー(炎症型:M1或いは抗炎症型:M2)とともに解析する。更にタモキシフェン誘導性CSF1Rノックアウトマウスを用いてCSF1R遺伝子を除去することによりどのような影響が現れるかについて調べる。またin vitroのグリア共培養系によるPVL誘導システム(炎症経路の誘導を担うTLR2を活性化する手法)によりミクログリアの形質の決定或いはオリゴデンドロサイトの分化にCSF1RやPSが関わるシグナルがどのような影響を及ぼすかについてABHD12の発現阻害実験や部位特異的変異の導入を行い、解析する。またCSF1R上のHDLS変異が見られる部位と相互作用するCSF1R下流のシグナル分子で幾つかの候補についてPS代謝やABHD12の機能との関係についてミクログリアの増殖や分化等に及ぼす影響を指標に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画遂行の3年目に該当し、脳内に存在するモノアシルグリセロールリパーゼの一種ABHD12の基質が遺伝子改変マウスの報告により明らかとなったことから、現在ABHD12のミクログリアでの機能について遺伝子発現阻害実験等を利用して解析している。ABHD12が細胞自律的にミクログリアの増殖や生存に関わっている可能性が強く示唆されたために類似した機能を持つCSF1レセプター(CSF1R)との関わりに特に着目して解析を進める。CSF1は虚血時の組織の壊死を抑制する働きを持つことが知られているがその具体的機構は明らかにされていない。PSとCSF1Rの関連に着目して研究を細胞・個体レベルで解析することにより虚血性脳症の発症メカニズムに関する基盤的な知見が得られるとともに炎症時にABHD12によって制御される標的分子の候補を明らかにすることにより臨床的応用への足掛かりとなる知見が得られると考えられる。 低酸素性虚血性脳症モデルにおけるABHD12の分子機能やPSの生理機能解析を行うためにin vitroのミクログリア単離培養系やグリア共培養系を使用する。目的遺伝子の発現やノックダウンにトランスフェクション試薬やレンチウィルスによる発現システムを使用し、細胞培養用試薬や培養関連器具の購入を計画している。またCSF1Rがミクログリアの増殖や形質の制御に重要な役割を担っており、脱髄疾患の原因遺伝子でもあることからCSF1RノックアウトマウスやPVLモデル動物を用いた解析を計画している。実験動物の飼育費や分子生物学的解析の為の種々の試薬類の購入を計画しており、組織学的解析を行うための抗体等の購入にも研究費を充てる計画を立てている。
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Research Products
(2 results)