2013 Fiscal Year Research-status Report
マイクロダメージを誘因とする生体組織の恒常性制御と力学的適応反応の機序解明
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24500522
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (00309270)
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Keywords | バイオメカニクス / 骨 / 皮膚 / 血管 / マイクロダメージ / リモデリング |
Research Abstract |
生体組織に発生するマイクロダメージは,組織健全性の維持と密接に関連している重要な事象であるにもかかわらず,組織の疲労損傷や部分損傷に関する研究が十分に実施されていないために,その発生メカニズムや損傷程度は定量的に把握されていない.特に,生体軟組織である腱や靭帯,皮膚,血管で発生するマイクロダメージに関する研究は,全く行われていないのが現状である.これらの軟組織でも力学的負荷下で組織の吸収と形成が常時繰り返されており,マイクロダメージの修復機構が組織の新陳代謝プロセスと関連している可能性は十分に考えられる.しかし,この仮説の検証は試みられておらず,軟組織の恒常性や適応機構において微小損傷の果たす役割は不明である.本研究では,ヘアレスラットの背部皮膚に対して,重度の損傷を生じさせないレベルの低強度の紫外線を照射する実験を行った.その後,軽度の損傷が引き起こされた皮膚組織の伸展性を評価するために,皮膚より作製したダンベル型試験片の引張試験を実施した.また,重度の高血圧症状にある疾患モデルラットの血管組織の内圧-外径曲線を求める実験を行った.正常の血圧よりも,極めて高い血圧が作用する環境下では,血管組織にミクロレベルの損傷が発生している可能性があり,微視的損傷と血管の力学的特性の関係を調べた.さらに,高血圧症や脳卒中の実験モデルラットや妊娠期に低栄養環境に曝されたラットより摘出した骨では,骨粗鬆症の症状を発生することに着目して,これらの実験動物の皮質骨の力学的特性や海綿骨形態,ならびに損傷治癒過程について検討した.これらの一連の研究によって,生体軟組織である血管や皮膚,あるいは生体硬組織である骨などの力学的特性が変化していく状況下では,組織内に微視的な損傷が発生していることが推察され.各組織の力学的機能の維持がどのような機構で行われているのかについての知見を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較対照群(Control群)である正常な皮膚組織と比べ,低強度(54mJ/平方センチメートル)の紫外線を照射した皮膚(UV群)では,各ひずみ値における応力が高値を示した.さらに,最終的な破断強度でも,UV群がControl群に対して高値を示す結果となり,一方,破断ひずみではUV群がControl群に対して有意に低値を示す結果が得られた.また,応力-ひずみ線図の傾きではControl群がUV群に対して有意に低値を示した.これらの結果から,低強度の紫外線をヘアレスラットの皮膚に照射すると,皮膚が硬くなり伸展性に悪影響を及ぼすことが明らかになった.皮膚へ紫外線を照射した場合,真皮中に存在している線維性タンパク質であるコラーゲン線維やエラスチン線維が破壊または変性するとともに,分解酵素の働きが促進されることが推察される.このような微細構成要素レベルでの反応と関連して,皮膚の生体力学的特性も変化したものと考えられる.今後の課題として紫外線照射時間と真皮中の線維性タンパク質の変性または破壊との関係を調べるために,紫外線の照射時間が異なる皮膚を使用し,強度試験を行なっていく予定である.これにより,紫外線が皮膚の真皮に及ぼす影響および光老化のメカニズムを明らかするためのデータが得られると推察される.また,重度の高血圧症状にある疾患モデルラットの胸部大動脈の内圧-外径曲線を求め,高血圧によって血管壁の伸展性が低下することが確認されており,内皮細胞層の部分的損傷と血管壁の剛性増加との関連を示唆するデータが得られている.一方,骨組織の力学的特性に関しても,低栄養環境下や高血圧症状での骨の微細構造の変化に起因する強度低下を,X線マイクロCT観察や圧縮破壊試験を行って確認しており,種々の骨組織の性状を対象として,骨強度と微細構造との関連について検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
骨,血管,皮膚などを対象として,様々な損傷や退行性変化を生じさせた組織の力学的特性に関するデータは十分に取得されてきており,今後は組織に生じている微細構造の変化や損傷発生の程度を同定するための実験や観察を行っていく予定である.硬組織である骨に対しては,アリザリンレッドなどの色素を利用した蛍光染色法やX線マイクロCT法によって,骨の微細構造の観察を行う予定である.一方,軟組織である皮膚,血管,腱・靭帯に対しては,微小損傷を検出する手法を検討する必要がある.微小損傷の有無によって,色素や微小粒子の組織への浸透度は異なることが予想される.また,超音波の反射波も組織の損傷度に依存する可能性が高い.よって,本研究では,液性因子の組織透過性と超音波を利用して,生体軟組織の微小損傷検出方法を開発する予定である.特に,皮膚の伸展性や剛性を超音波診断画像によって定量的または定性的に判断する手法を検討する.それぞれの組織の微小損傷を定量化する手法を確立した後は,正常の組織に生理的負荷レベルの繰り返し負荷を作用する力学試験を実施して,損傷発生の程度を明らかにする.次いで,疾患,老化や骨粗鬆症の状態にある組織を対象とした実験を行い,生理的負荷下で発生する微小損傷の定量化を試みる.このような一連の実験を通して,負荷環境下にある組織の機能維持や適応変化が,組織のマイクロダメージと関連しているとの仮説を検証する.さらには,生理的負荷レベルの下で正常な骨や腱・靭帯組織に発生する損傷や,老化や疾患が骨や腱・靭帯のマイクロダメージ発生に及ぼす影響を調べていくことで,損傷によって誘因される組織再構築の機構を定量的に解明していく予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の実験は順調に行われており,これまでは計測手法の確立や実験の再現性を確認するためにやや多く労力を使ってきた.特に,皮膚組織に適度な損傷を生じさせるために必要な紫外線の強度や照射時間の条件を設定するための予備実験に多くの時間を費やした.従って,実験試料を得るために不可欠である実験動物の購入費用が当初の計画よりも少なくなったことで,次年度使用額が生じた.しかしながら,手法の確立することや実験データの再現性を検証することは,研究を遂行していくうえで極めて重要な過程である. 次年度においては,より正確なデータ取得しながら,多くの実験を行うことが可能な状況になっており,残額となった研究費を有効に活用していく予定である. 次年度は実験用材料や消耗品の購入を十分に行う.疾患モデルを含む実験動物の購入は,実験試料を得るために必須である.さらに.,力学試験用試料や組織観察用試料を作製するために必要な切削器具や研磨材,化学薬品などを購入する予定である.また,成果発表のための旅費に研究費を使用する予定である.特に26年度には,得られた研究成果を海外で発表する機会として,アメリカ整形外科学会への講演申込みなどを計画している.
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Research Products
(3 results)
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[Presentation] Biomechanical properties of cortical bone obtained from experimental animal models of lifestyle-related diseases2013
Author(s)
Yamamoto, E., Takeda, I., Miyazaki, Y., Takemori, K., Ito, H.
Organizer
The 2013 Annual Meeting of the Korean Society of Mechanical Engineering
Place of Presentation
YeoSu, Korea
Year and Date
20130523-20130523