2013 Fiscal Year Research-status Report
廃用性筋萎縮からの回復過程に対する分子生物学的研究
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24500625
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
渡辺 正仁 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70084902)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 禎章 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70268192)
山路 純子 (田代 純子) 大阪医科大学, 医学部, 講師 (40340559)
山本 真紀 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (60240123)
廣島 玲子 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 准教授 (40404777)
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Keywords | カルシニューリン / IGF-1 / IL-6 / ミオシン重鎖 / 熱ショックタンパク / 骨格筋細胞 |
Research Abstract |
長期臥床やギプス固定等により骨格筋は廃用性萎縮を生じるが、その後に運動負荷を行うことでと骨格筋量が回復する。これまで、骨格筋の増殖・肥大に関わる因子としてインスリン様成長因子-1(IGF-1)やインターロイキン-6(IL-6)等が報告されているが、その細胞内機序について完全に明らかにされているとは言いがたい。本研究では、ラット筋芽細胞由来の培養細胞であるC2C12細胞を、2%牛胎児血清を添加した培養液(D-MEM)中で培養することで骨格筋細胞へと分化させ、リアルタイムPCR法によりミオシン重鎖タイプI(MHC I)、熱ショックタンパク70(HSP70)およびIL-6のmRNA発現レベルを測定し、コントロール条件と培養液に薬剤を添加した条件を比較することで骨格筋肥大に関わる因子を検討した。 培養液にIGF-1を添加すると、IL-6のmRNA発現レベルのみがコントロール条件に比べて上昇し、MHC IとHSP70のmRNA発現レベルは低下した。次に、IL-6またはLa3+を培養液に添加すると、MHC I、HSP70およびIL-6のmRNA発現レベルはコントロール条件に比べて有意に上昇した。細胞内に流入したLa3+はCa2+依存性タンパク脱リン酸化酵素であるカルシニューリンをCa2+非依存的に活性化することが知られているため、その阻害剤であるFK506をLa3+と同時投与したところ、La3+投与によるMHC I、HSP70およびIL-6のmRNA発現量増加が有意に抑制された。したがって、骨格筋細胞に分化したC2C12細胞におけるMHC IとHSP70のmRNA発現レベル増加には、IL-6およびカルシニューリン活性化が関与しており、IGF-1は関与していないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の実験計画では、Ca2+イオノフォアであるイオノマイシンを投与したり、伸展培養装置を用いて細胞に伸展刺激を与えてTRPチャネルを開孔させることで、C2C12細胞内の細胞内Ca2濃度を上昇させ、細胞内におけるCa2+依存性リン酸化酵素や脱リン酸化酵素を活性化させ、ミオシン重鎖タイプI(MHC I)や熱ショックタンパク70(HSP70)のmRNA発現量の変化を測定する予定であった。しかしながら、C2C12細胞において細胞内Ca2+濃度を上昇させるとアクチンとミオシンの相互作用が生じ、細胞が収縮して培養ディッシュや培養プレートより剥離することが明らかになったため、インターロイキン-6(IL-6)ならびに、Ca2+非依存的に作用するカルシニューリン活性化剤の投与によるmRNA発現量の変化を観察した。これにより、従来報告されているように、IL-6の投与がMHC IおよびHSP70のmRNA発現量増加を引き起こすことで骨格筋細胞の肥大過程に関わっていることを明らかにすることができた。また、La3+はTRPチャネルを介した細胞内へのCa2+流入を阻害することを目的として使用したが、予想とは逆にMHC IおよびHSP70のmRNA発現量増加が生じた。そこで、そのメカニズムを検討したところ、カルシニューリン阻害剤であるFK506がLa3+投与によるmRNA発現量を減弱させたため、La3+投与の作用は細胞内でCa2+非依存的にカルシニューリンが活性化されたためであることが明らかになった。以上のごとく、当初の研究計画とは若干の相違があるが、新しい知見を見いだすことができたため、研究活動は概ね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は以下の通りである。まず、カルシニューリン活性化がどのような機序を介してミオシン重鎖タイプI(MHC I)や熱ショックタンパク70(HSP70)のmRNA発現量を増加させているかを検討する。現時点では、La3+の投与によりIL-6のmRNA発現量も有意に増加するため、La3+投与によるカルシニューリンの活性化がNFATなどの転写因子を介してIL-6を産生させ、オートクライン・パラクラインにより骨格筋細胞自身に作用しているものと考えられる。したがって、今後はLa3+を投与すると同時にIL-6受容体阻害剤の投与を行い、この仮説が正しいかを検討する。さらに、La3+以外のCa2+非依存性カルシニューリン活性化剤のMHC IやHSP70のmRNA発現量に対する影響を観察する。文献的に知られているCa2+非依存性カルシニューリン活性化剤としてはクロロゲン酸と不飽和脂肪酸があるが、これらを投与することでLa3+と同様にMHC IやHSP70のmRNA発現量が増加するのか、またその効果に違いがあるのかを検討する。そのうち最も低濃度で作用が認められる薬物を、後肢をギプス固定をしたラットの骨格筋に注射あるいは食餌中に含有させることで、廃用性筋萎縮の進行程度をギプス固定のみのコントロール群と比較し、臨床応用が可能かを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
渡辺正仁に関してはパワーラブ一式を購入したが、必要な機器を再検討したところ、本年度の予算を次年度に繰り越しし、スティムレーター購入費用の一部に充当するために残額を繰り越した。森 禎章、山本真紀に関しては、本年度の研究を進める上での消耗品が充足したために次年度の分子生物実験用消耗品購入のために残額を繰り越した。廣島玲子に関しては動物実験を行うための準備段階であり、次年度の動物実験のために繰り越しを行っている。 渡辺正仁と廣島玲子に関しては、次年度ラット摘出筋を用いた筋力測定のために、繰り越した研究経費を用いる予定である。特に、実験動物とスティムレーターを購入する予定である。森 禎章、山本真紀に関しては、分子生物実験を継続して行うため、次年度における消耗品購入に当該研究経費を充当する予定である。
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