2012 Fiscal Year Research-status Report
手に震えのある振戦患者のペン運びをアシストする装置の開発
Project/Area Number |
24500672
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
柴里 弘毅 熊本高等専門学校, 制御情報システム工学科, 教授 (60259968)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生活支援技術 / ヒューマンインターフェース / 福祉用具・支援機器 / 福祉・介護用ロボット / ユニバーサルデザイン / 人間-機械システム / 制御工学 |
Research Abstract |
原因不明の理由により筋肉の収縮、弛緩が繰り返される振戦(しんせん)と呼ばれる症状がある。症状が重くなると字が書きづらいなど、日常生活にも支障をきたすことが問題となっている。本研究では、手に震えのある振戦患者が、自分の身体能力を活用して文字を書けるようにペン運びをアシストする装置を開発する。アシスト装置の開発には、ペン運びを妨げずに振動を抑制する技術の確立、卓上の小型ロボットアームを用いたアシスト装置の製作が必要である。文字を書く動作にはリハビリの効果があることは一般にも知られており、相乗効果による機能回復も期待できる。 本研究の実施にあたり、申請者は操作ペン型の入力装置を用いた上肢運動能力の客観的評価実験システムを作成した。この実験システムは、丸や三角の図形上移動するターゲットをペンで追跡させ、ターゲットとペンの誤差を用いて上肢運動能力を数値で示す機能を有する。本研究では、座標分解能が高く動作域を広く取れるPHANTOM Desktop(830千円)を購入したことで、約500[Hz]サンプリングが可能となり、振戦患者の筆跡測定と振動抑制制御に十分な性能を確保した。 次に、振戦患者のペン運び動作に含まれる不随意運動を抑制する機構を2つの手法で実施し、両者の比較検討を行った。一つ目は、外乱推定オブザーバと不随意運動に特有の周波数帯域を抽出するフィルタを組み合わせる手法、二つ目は、随意運動成分を推定し誤差修正を目的とした出力フィードバックを行う手法である。シミュレーション実験の結果、外乱推定オブザーバとフィルタを用いる手法では、位相のずれの影響が大きく不随意運動の抑制の効果が弱いことを確認した。一方、出力フィードバックを用いた振戦抑制では、制御開始時の遅れがあるものの随意運動と同程度の制御結果が得られ、改善が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験装置では、分解能の高く小型のロボットアームPHANToM Desktop(830千円)を新規に購入し、丸や三角の図形をディスプレイに表示させてペン運びを計測する実験システムの改良を行った。計測プログラム内のアルゴリズムも同時に見直し、従来の装置でサンプリング周波数60[Hz]であったものを、改良した装置では500[Hz]に向上させた。また、実空間とコンピュータ内の座標の同期を取るアルゴリズムを変更し、計測誤差を減少させた。実験により、健常者が疑似的に手を震えさせながら文字を書いたときについては、①文字や図形を描くために起きる低周波のピークと②震えによるピークが観測されることを確認した。 次に、ペン運びのアシストに関する制御手法として、振戦制御系の構成を振動系質量M、振動系質量に作用する摩擦力Fr、バネ定数k、外乱変位w、などを用いて1自由度の運動モデルを構築した。外乱変位wは操作者の随意運動と不随意運動による変位の和として表される。このモデルを用い、外乱推定オブザーバとフィルタにより不随意運動成分を推定し相殺するよう制御力をペンに与える手法と、随意運動成分を推定し誤差修正を目的とした出力フィードバック制御手法により制御力を発生する二つの手法を考案し、シミュレーション実験により制御性能を比較した。端的に述べると、外乱推定オブザーバを用いる手法ではフィルタの影響で位相のずれが生じ、不随意運動の抑制が困難であったのに対し、出力フィードバック制御手法では遅れが生じるものの不随意運動の抑制で良好な結果を示すことを確認した。 医療機関との連携については、近郊のリハビリテーション機関と臨床計測に向けた各種計測条件の打ち合わせを始めており、25年度での振戦患者の計測を目指している。 以上、研究の目的の達成度については、おおむね研究計画通りに進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
振戦患者にアシストシステムを適用するにあたり、アシストの効果や安全性を事前に確認するブラッシュアップ作業が必要不可欠である。健常者が手を震わすことにより疑似振動を発生させることができるが、常時5~10[Hz]と高速に手を震えさせながら患者の特徴を再現することは不可能である。そこで、書字動作モデルを用い患者の特徴を再現する実験装置を製作する。これにより、アシスト理論の評価体制と安全性を確立する。医療機関との連携については、近郊のリハビリテーション機関と臨床計測に向けた各種計測条件の打ち合わせを始めており、振戦患者のペン運びを平成24年度に作成する装置を用いて計測する計画である。 次に、データを周波数解析し、疑似振動を発生させる装置の動特性を決定する。新規に購入するサーボモータとアンプを用い、疑似振戦発生装置を作成する。これを平成24年度に作成するアシスト装置に取り付け、実患者と同様の計測結果が得られることを検証する。 また、書字アシストに実装予定の振戦制御の基礎実験を行うための振戦制御実験装置を作成する。ペン運びアシストに使用する小型ロボットアームは小型であるため強度面での不安があり、振戦抑制アルゴリズムの検証実験段階での装置破損の懸念がある。そこで、平成24年度にシミュレーション実験で確認した、振戦患者のペン運び動作に含まれる不随意運動を抑制する機構を確認するために、繰り返し振動を加えても強度的に問題のない実験装置を新規に作成し、振戦抑制に有効な制御手法を確立させる。シミュレーションにおいては、外乱推定オブザーバより出力フィードバックを用いた振戦抑制の優位性が確認されている。基礎実験装置を用いた実験結果を踏まえて、小型ロボットアームによる書字アシストシステムに実装する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の実施計画としては、疑似振戦発生装置作成と振戦制御基礎実験装置の2つの実験装置作成を予定している。いずれも既成の製品の購入ではなく、研究課題に適した形状・性能を有する実験装置を新たに設計する。実験装置に使用するアクチュエータは選定中であるが、実験装置の作成には、1700千円を予定している。 また、得られた研究成果については、随時学会での発表を行う予定で、研究室の学生の発表も計画している(300千円)。
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Research Products
(4 results)