2012 Fiscal Year Research-status Report
スポーツ競争に拡大体験の地平を探る意味生成論の展開
Project/Area Number |
24500723
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
深澤 浩洋 筑波大学, 体育系, 准教授 (50313432)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自己 / 他者 / 純粋経験 / empathy / sympathy |
Research Abstract |
スポーツにおいて競争という一見他者との隔離を誘発する様相において、参加者同士に拡大体験が成立する地平を探るべく、(1)拡大体験に関して、競技者個人の体験やその思索に関連する文献の収集を行い、(2)拡大体験を包摂する意味生成の様相に関わる文献として、ベルクソン関連の収集を行った。また、(3)拡大体験の基盤として、自己と他者とが共に成立する様相を明らかにすべく、西田幾多郎の「善の研究」「私と汝」などの文献調査を元に解読、考察並びにその成果の発表を行った。 (1)に関しては、国内外の競技者の体験を綴った文献を収集し、解読作業に着手した。 (2)に関しては、ベルクソンに関して海外の研究者からの情報を元に、収集に着手した。また、ベルクソンの新訳が発刊されたが、24年度中には全巻の出版が完了しないため、引き続き収集に当たる必要がある。 (3)に関しては、競技者の自由自在な遂行が彼ら自身とその環境との適応状態として西田の「純粋経験」概念からの解釈が可能であること、また、西田にとって自他の境界が消失する境地というものが、自己の底の底を見つめる過程に見出されることが明らかとなり、これら「純粋経験」と「自他の問題」を踏まえて競技スポーツにおける共感の可能性への適用や解釈を試みた。その結果、例えば、柔道で相手をほとんど力を入れずに投げることができる瞬間やマラソンで相手の心身の状態をつかめた瞬間に経験される共感に純粋経験との相似性が認められること、また、これを通して自他の区別がより自覚化されることが、一つの解釈として得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画のうち、ベルクソン関連の検討は十分にできなかったものの、その代わり25年度に予定していた西田幾多郎に関する主要概念の検討を先行させ、自他関係の基礎的な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、ベルクソンの文献の解析を中心に行い、彼の生成論と西田を中心とした東洋思想との接合点を探る。具体的には、西田の純粋経験には段階的に複数の相が顕現しつつ展開されているため、この段階性とベルクソンの生成のプロセスとの近接性や相違を確認する。 また、西田の私-汝関係について、M.ブーバーの我-汝関係論からの検討を行い、そこで確認された自他関係の様相に基づき、拡大体験の理論構成に踏み込む。 そして、スポーツにおける意味生成に関する具体例の収集をさらに進める。競技者の神秘的な体験や日常生活では経験できないものをスポーツ・ノンフィクションや選手のインタビュー記事、自伝等から抽出し、先のプロセスに基づく解釈を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ベルクソンやM.ブーバー、西田幾多郎などの特に自他関係や生成論に関する著作の購入、関連研究収集のための文献複写費として使用する(100千円)。 これらの資料整理のための人件費を支出する(50千円)。 また、世界哲学会(8月アテネ:西田を中心とする自他関係論)、日本体育学会(8月びわこ草津:スポーツ経験と拡大体験)に参加するための旅費を使用する(300千円)。 日本体育学会国際誌への投稿(西田の自他関係論および純粋経験論とそのスポーツへの適用可能性)に係る英文校正費としても使用予定である(50千円)。
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